長谷川昭雄の対談連載
まじめに働いてんじゃねーよ!!(仮) Vol.01 町田雄二 後編
ファッションディレクター、スタイリスト。英国の雑誌『モノクル(MONOCLE)』の創刊より制作に参画、ファッションページの基礎を構築。2014年には同誌のファッションディレクターに就任。2012年から2018年秋まで雑誌『ポパイ』のファッションディレクターを務めた。2019年よりフイナムと共同でファッションウェブマガジン「AH.H」をスタート。
『POPEYE』編集長。2001年マガジンハウスに入社。『anan』、『BRUTUS』の編集部を経て、2019年末より現職。
鎌倉・由比ヶ浜海岸の海の家「パパイヤ」での前編から、鎌倉のイタリアン「オステリア・コマチーナ」にて河岸を変えた後編。シンプルで滋味深い味付けのお皿と、多種多様なワインが揃う「コマチーナ」はいつ行っても落ち着くし、ときめくという不思議なお店。
そんなわけで、ついついご飯もお酒も進んでしまい、夜遅くまで仕事、編集、編集者についての激論が交わされたのでした。
町田さんは『POPEYE』の撮影現場に行ったりするんですか?
いや、ほとんど行ってない。でもそれはわざと行かないようにしてるところもあって。行ってもあまり役に立たないし(笑)。あとはみんなが嫌がるから、現場の力学が変わってしまうというか。本当は行きたい取材とかいっぱいあるけどね。ただ本当に現場に行きたいんだったら、やっぱり自分で企画を作って行った方がいいよね。やっぱり現場は楽しいし、もっと現場に行けるような機会をちゃんと作んなきゃなって。
そうだよね。
『BRUTUS』から『POPEYE』に来て5年ぐらいになるんだけど、これまでは土壌を耕す仕事だったから、ここからかなって思うんだよね。誰が編集長で、どういうチームでやるかですごく変わってきちゃうわけで。工業製品を作ってるわけじゃないから、少しでも人が変わると同じものを作れなくなっちゃうっていうのは、やっぱりあるよね。
あるよね。うん、わかる。
一方で、そのタイミング、その場にいる人たちで、いかにうまく作るかっていうのも編集者といえるんじゃない?
でも、いいスタッフを集めないといい雑誌にはならないよ。三流が集まっても三流にしかならない。編集者はいいスタッフを集めることが仕事だと思う。あとは組み合わせだね。『HUgE』で(スタイリストの野口)強さんが、よく戎(康友氏。フォトグラファー)さんとやってたじゃない。 でも俺と戎さんがやっても、ああはならないし、なれない。そのチームだからできることなわけで。
ファッションは特にそうだよね。編集者はタクトを持って指揮をする立場ではあるから、同じページを同じテーマ、同じスタッフでやるにしても、どの編集者が担当するかによってページは変わっていくものだから。それができないとしょうがないし、いる意味がないというか。
そうかな? 俺の場合、誰が担当でもあまり関係ない。ただ、うまい編集者はうまく俺を扱う。昔の『POPEYE』で言うと加藤直子がいた。俺と白山(春久)さんを『BRUTUS』に呼んだのは彼女で、俺たちを一生懸命サポートしてくれたし、アイデアもあってみんなも影響されたと思う。そして俺たちも彼女に撮影への向き合い方を伝えられたと思う。編集者とスタイリストはさ、その相互関係が大事だから。それをそのまま木下さんが拡大させたのが、2018年ごろまでの『POPEYE』だったと思う。だからつまりタクトを持つにしても、そもそもお願いした演奏家の仕事に興味が薄いと発展しないから意味ないよね。指揮者と演奏者が同じイメージを持っていないと、どんな曲やってもさ。そもそもファッション撮影ってオーケストラみたいにたくさんの人がいる現場ではないから、役に立たない指揮者だったらいなくていいし。弁当代が無駄にかかる。でもそんなふうに世間も思ってる節があると思う。編集者なしで進行していく撮影がアパレルだとよくあるから。でもそんなことだからビジュアルに対する敬意がなくなるんだよね。模倣するにしてもその配合率や目的やその時代のタイミング、媒体によって許される程度が違ってくると思う。ファッションはファッション写真としていいのかどうかって言う価値基準も大事な文化だから、ただ服が写ってれば良いわけじゃない。フォトグラファーの作家性とか、今どういう写真であるべきかとかも考えてないといけないし、それを写真家やスタイリストと議論できないとダメだし、それがファッションエディターの仕事じゃない? そういうのがないとポリシーのない模倣ビジュアルしか出てこなくなる。『POPEYE』には今、ファッションページを作れる編集者っているの?
通り一遍で言えば、ファッションチームもあるし、ファッション号も作ってるわけだから、ページを作っている編集者はいるよ。ただハセくんをノセられる編集者はもういないのかもしれないね。俺がハセくんのことが好きなのはどこの雑誌、メディアでやっていようとも同じことをやってるように見えることなんだよね。それは自分の腑にしっかり落ちたことしかやらないってことなのかもしれないけど、ページを見たらすぐにわかる。読者だってわかると思う。ずっと昔に『BRUTUS』で一緒にやっていたときに思ったんだよね、ハセくんはページの企画は違っていても、根っこは同じことをやり続けているって。飽きずに繰り返し繰り返し同じことをやる。言ってしまえば不器用なのかもしれないけど、そういう姿を見て信頼できると思ったし、もしかしたら、そういうところからオリジナリティも生まれてきたんじゃないかなって。
俺さ、自分で思うんだけど、服をごまかすのがうまいと思うんだよね。
よりよく見せるってことね。
そうそう、よく見せるってこと(笑)。白川くんを始め、撮影チームの存在も大きい。ダメな服でもよく見えるように、俺が納得するまでみんな付き合ってくれるから。あと、『BRUTUS』では30ページくらい使って全クライアントのフォローページ作ったりしてたから、あれでかなり鍛えられた。あれがあったから『POPEYE』が作れたんだよね。若者はまず『BRUTUS』やった方がいいよ。それから『POPEYE』をやった方がいいと思う。『POPEYE』は若いスタイリストがやるものだとみんな思ってるかもしれないけど。
なるほどね。
よく言われるんだけど、俺と白川くんで作ったビジュアルを見て服を買いに行くと、写真と実物が全然違うって(笑)。
誌面ではあんなによく見えたのに(笑)。
それはこのチームの技術レベルによって作り上げられてるものだったりするからね。
服をよく見せるってのはどういうことなの?
個人的な主観でしかないからね。自分がいいと思うかどうかってだけかな。
その、いいと思うところってどういうところなんだろう。質感とかシルエットとか、色々あるんだろうけど。
質感とシルエットだよね。
笑。サイズ感は?
いや、サイズ感はつまりシルエット、フォルムに関わって来る話だから。基本的にはモデルとのマッチングが大事。体型によってサイズ選びも違ってくるし。あとはこの服欲しいなと思わせるような雰囲気を撮れたらこの回は終わり、みたいな。撮れるまで撮る。
メインにハラミの皮を使い、あとは牛すじなどを入れたモツ料理。イタリアンパセリとアンチョビ、ケッパーなどをフードプロセッサーで撹拌したソースが絶品。牛モツのボッリート(茹で)¥1,680
季節によって異なるイカを使うそうで、この夏はアカイカで。シチリアの「ヴェッキオ サンペーリ」というワインを使うことで、独特の風味、香りに。イカとマイタケのソテー ¥1,680
やっぱり「コマチーナ」うまいよねぇ。
いいよね、いつ来ても。
うん。シンプルなんだけど、本当うまい。
ちなみにさ、服単体で見たときは、どういうのがいい服だと思うの?
やっぱりシンプルな服がいいなって思う。
けど、シンプルな服なんて今までもうゴマンと出てるわけじゃない。まだ改良の余地があるのかな?
あのね、多分人って何かをしなきゃって思って生きてるんだよ。だからほとんどのデザイナーはデザインをたくさんするんだよね。スタイリストはスタイリングをしすぎたり。でもデザインしないデザインっていうのもあるじゃない? フォルムを設計するとか質感を考えるとか、そういう微差こそが大事だと思うんだ。俺はね。みんなはどうだか知らないし、自由でいいと思うけど(笑)。俺はいろいろな時代を経て、普通の服をさらっと着ることが好きになった。デザインされた服であっても、さらっと着たい。
俺は普通の大学生だったからかもしれない。街に溶け込んでいたいし、奇抜でいたいと思わないんだ。服に興味がない友達と会うときにやたらファッションに見える人でいたくないし。「UNIQLO」が強いのはそれかもしれない。そぎ落とされてて、何もしていない服の方が誰でも似合うんだよ。デザインもスタイリングもやればやるほど誰かにしか似合わない服になっていくと思う。でも少し何かを変えるだけで新しく見えたりするわけでさ。人の好みだから、友達や家族の服装に対して俺は一切口を挟まない主義で、誰が何を着ていようが自由だと思ってる。どんなデザインの服を着ていようが、特に何も言わない。でも、どんな服でも似合えば最高。似合ってなかったら最悪だなとは思う。
笑。
だからデザインがあまりされてない服が俺は好きだな。でもデザイナーはデザインすることが使命だからどんどんデザインするじゃない? それは素晴らしいことだと思うけど、俺は気合いの入ってない感じでいたいし、普遍的な服が好き。着ていて、なんかいいねって思ってもらえるようにスタイリングでいい感じに見えるくらいの人でいたいんだ。限定物にも興味ない。インラインを買いたいし、それをさらっと着ていたい。
となると、素材、質感、サイズ感ぐらいしかないと。
服を選ぶときは自分は常にそのポジションで見てる。いろんな服があるなかで、デザインしてると思ったらパス、パス、パス、次、次、次ってなって(笑)、なんでもない服を見たときに「これ!」って選んでる感じ。
でも、今って、なんでもない服がありすぎるじゃない。
そんなことないよ。
そうなの?
ないない。だからやっぱり〈NIKE〉の店とか「PROPS STORE」に行って、そのなかでどうでもいい感じの、何もしてない、ただただ大量生産してるような感じの服が最高!と思って買うのがやっぱり俺は好きだなって思う。
「I&I」って古着屋をやっている友人から聞いて、そういうものかな、って思ったのは、最初は誰も見向きもしないアメリカの「普通の服」が好きで、そういうのを売っていたんだけど、その後「普通」ブームがきて、15年ぐらい経った今は、アメリカに探しに行ってもいい感じに「普通」といえるアメリカの古着がなくなってきたって。
いろんななんでもない服があるなかで、今だったらこれって引っ張り出すことが大事なんじゃないかな。「RAWDRIP」にもたまに行くんだけど、いいお店だなって思う。アメ横に近いものがあるよね。メンズファッションのカジュアルウェアってやっぱりなんだかんだ言って、アメリカものがベースみたいなところがあるから、そういうところに行くと、「今これいいな、しかもこんな安いんだ」みたいなさ。
そういうのってアップデートしていくの?
スパゲッティよりも麺が太いスパゲットーニを、レモンと発酵バター、そして濃いめの生クリームで和えて。茹で時間が少々長いのでご注意を。レモンクリームのスパゲッティ ¥1,980
タヤリンと呼ばれる北イタリアはピエモンテ州の平打ちパスタに、牛肉を赤ワインで煮たラグーを絡めた一品。よく混ぜて召し上がれ。牛肉ラグーのタヤリン ¥1,980
アップデートっていうか、例えば300個あるなかから今ならこれって選んでるような感じかな。日本人なんかとくに体格の差がほとんどないじゃない? そのなかでの微差が日本人にとっては大事なんだと思う。
なるほどね。
あー、このレモンパスタ、食べたかったんだよね。あとこっちのパスタも!焼きそばって呼ばれてるんだっけ? 食感が忘れられないんだよね。
ペヤングみたいな麺で、うまいよね。
20年とか25年ぐらい前に初めてタイアップの仕事をもらったんだけど、そのときの担当が木下(孝浩氏。『POPEYE』編集長、現「UNIQLO」)さんだったのね。なんか無名なブランドだけど、まぁやってみようよっていう感じで。で、そこにいろんな服があったんだけど、そのときに木下さんが「こういうときは一番シンプルな服を選ぶのがいいからね」って言ったんだよね。「はい」って言いながら、全然そうじゃないもの選んだんだけど。
笑
結局、その後ドツボにはまって、結構大変だったんだけどさ。でもなんかその言葉をよく覚えてて。今、自分がやってることとか、まさにそれなんだよね。『Monocle』からも、まさにそういうことを求められてたから。タイラー(ブリュレ氏。『Monocle』編集長)から最初に言われたのが「この雑誌は年収2000万円以上の人がターゲットです。銀行員とか弁護士とかそういう人たちが着る普段着で、ファッションページを作ってください」って。そのとき全然お金がないときだったから、年収2000万円の人の気持ちなんかわかんないし、2000万円ぐらいくれるのかなとか思ったんだけど(笑)。でも、その経験がすごく学びになったんだよね。木下さんの言葉を思い出したのかもしれないんだけど、 とにかく毎シーズン地味な服を選び続けてた。
そんな感じだったね。
使ってほしいブランドのリストがバーってあって、ブランドが推してるアイテムはこれ、みたいなのがたくさんあるんだけど、そういうのは全部いりませんって。紺のブレザー、白いTシャツ、無地のクルーネックのセーター、それを借りてきてくださいって編集部に言われて。そういうのが『POPEYE』をやるときのベースになったんだよね。
うんうん。でもさ、ハセくん、前はそんな感じじゃなかったよね。
全然違う。もっとむちゃくちゃだったからね。若い頃は例えば〈NIKE〉の「Shox」が流行ったときは、ああいうのを履いてたし、髪はアフロだったしね。だからそういう格好をしながら、なんでもない服を扱うのを、仕事として割り切ってやってたんだけど、だんだん年を取ってくるうちに、そういう方がいいなって思い始めたんだよね。今は逆にまた「Shox」とか履きたいぐらいになってきちゃったんだけど。
逆になってきてるんだ。
もう何回転もしてるからね。でもまぁ、やっぱりそういう奇抜なものよりも、〈Clarks〉とか〈VANS〉だったり、あとは〈Last Resort AB〉なんかをうまく着こなしていくことの方が、 ファッションのインテリ度数は高いとは思うよ。ただ、今みんながファッションっぽすぎるから、 アンチファッションなものがすごく着たくなってる。今は夏っていうのもあって、アメリカのモールで売ってるような服が着たい。駄菓子みたいな安くてなんでもない服が着たい。
あ、ドルチェが出てきました。なんやかんやで、もう3時間くらい話してますね。。
このパンナコッタ、めちゃくちゃ美味しい。。ところで、この間お二人がご一緒していた『POPEYE』の5月号は、どんなことを考えて作られたんですか?
あれは近年の自分の集大成って感じなんだよね。でもやっぱり、今は食事の世界が最先端で面白い。有機野菜とか徹底的に原料にこだわるシェフや店がたくさんあってどこも楽しいよ。美味しいワインがあって。たとえばナチュラルワインだと飲みすぎても、次の日が楽なんだよ。その視点で見始めるだけで世界が変わってくる。小規模だからできるビジネスなのだろうけど、ワインの世界は若者もみんな真剣にやってる。センスのいい人が多いよ。まぁでも、知らない人は全く知らない世界なんだろうけど。でもワインの世界はどんどん進化してる。それが飲食の世界の夢のある部分だよね。面白いしかっこいいし美味しいし。世界はお金を稼ぐために大きくなりすぎてて、政治や経済の闇の中に入りがちだからこそ。
自分は1人の読者としていまのハセくんが作る『POPEYE』を見てみたいと思ったんだ。1人のスタイリストで1冊の特集を作るってのは普通はしないことなんだけど。結構前に一緒に飲んでいたときに、いまの時代のファッション性ってファッション業界ではなく飲食業界にあると思うんだよね、ってハセくんが話してて、それがすごく面白い視点だなって思っていたんだよね。それが起点になった特集。
服に関してはなんかいろいろやってきた結果、どっかで自分で飽きちゃってるところがあるんだよね。もうこれで十分ってなってるし。LAとかに行くとワークウェア屋さんとかあるじゃない。そういうところで売ってるような、どうでもいい服が着たくなるんだよね、夏はとくに。20ドル、30ドルで買えるような服の良さみたいなものの方がいいよなって思ってた。
編集者の話に戻すと、編集者ってSNSがそんなにアクティブじゃない説ってありますよね。
それはすごく思う。俺の周りにいる編集者、ほとんどやってないもん。
なんなんだろうね。やっちゃいけないんじゃないか、みたいなところがあるのかな?
だからイベントとかに呼んで、何かを渡したりしても、みんな大してやってないから、宣伝にならないっていう(笑)。
それって横柄な態度に見える?(笑)
いや、そうじゃないと思う。編集者って奥ゆかしい人たちだからさ。自分たちが前に出るよりも、人を立たせる職業だから出ない方がいいって思ってるんだよね。あとは自分たちの表現の場があるからね。だからやらないんだと思うよ。だってリサーチで色々なところに行っても、すぐにSNSにアップしたりしないと思うんだよね、編集者は。ただ、編集長クラスがクライアントから受けてるサービスは度を越してることもあるよね。たいして売れてない雑誌でも編集長にはそこまでするんだ!?ってびっくりすることがある。
あ、そうなの? 俺はあまりそういうサービスは受けたことがないなあ(笑)。 自分はファッション業界長くないから正直よくわからないけど。SNSに関していえば、積極的にはやってないけど、やっぱり常にネタは探してるよね。職業病みたいなもんだと思うけど。あとハセくんのいうように、『POPEYE』とか『BRUTUS』みたいにメディアがあって、そこで表現欲を満たしてるからアップしないっていうのもあるのかもしれないけど、それよりも単純に隠してるのかもしれないよね、編集者の習性として(笑)。
俺も一応それなりに計算しながらインスタグラムには出してるからね。でも今はスピード感が大事だったりもするから、そこの判断も必要だと思うんだよね。今この瞬間に出しちゃった方がいいものもあるし。それがないと、その辺のインスタグラマーに勝てなくなってくるよ。
そうかもね。
住所:神奈川県鎌倉市小町2-6-12 KUSUNOKI443
電話:0467-23-2312
営業:ランチ11:30〜13:30(L.O.)、ディナー18:00〜20:00(L.O.)
定休日:火曜休、その他不定休あり