長谷川昭雄の対談連載
まじめに働いてんじゃねーよ!!(仮) Vol.03 相馬夕輝 後編
ファッションディレクター、スタイリスト。英国の雑誌『MONOCLE』の創刊より制作に参画、ファッションページの基礎を構築。2014年には同誌のファッションディレクターに就任。2012年から2018年秋まで雑誌『POPEYE』のファッションディレクターを務めた。2019年よりフイナムと共同でファッションウェブマガジン「AH.H」を、2023年より〈CAHLUMN〉、「andreM hoffwann」をスタート。
滋賀県出身。「D&DEPARTMENT PROJECT」の飲食部門「つづくをたべる部」ディレクターとして、日本各地を取材し、その土地の食材や食文化を活かしたメニュー開発や、イベント企画なども手がける。2024年、初の著書となる食分野での活動をまとめた『つづくをたべる食堂』を出版。2025年7月25日よりオンラインでの会員制スーパーマーケット「Table to Farm」をスタート。
長谷川さんがディレクションするブランド〈CAHLUMN(カウラム)〉の拠点である、御茶の水の「CAHLUMN STORE」を舞台に、食に関するお話を徒然なるままに。
7月25日(金)から公式オープンで本ローンチという形にできたらと思っているので、まだプレローンチといった状態なんです。なので、7月からは生産量の都合を見ながら、会員数の上限を設定して、お申込みを受け入れていくということになりそうです。
購入の仕組みがいろいろあって面白いですよね。
すぐ届く「お急ぎ購入」と、2週間ごとの配送で「1回だけお届け」「2週間ごとにお届け」「4週間ごとにお届け」と選択肢が豊富です。
基本は定期購入してもらえるといいなと思ってるんです。卵を2週間に1回、もしくは1ヶ月に1回買うというふうに習慣化していただけると、生産者側で定期的に注文が来る量が予測できるようになるんです。そうすると、安定した収入と安定した生産計画を立てられるので、すごくありがたいんですよね。
なるほど。
ただ、多ければいいということでもなくて、いきなり需要が増えると、結局それがひずみになってしまうこともあります。今後これが来るからということで、先行投資をしてダメになってしまう生産者も見てきたので、じわっと増え続けるのが1番いいんです。それでいうと、今は「お急ぎ購入」を利用される方が多いですね。
そうなんですね。待つ時間も楽しかったりするんですけど、すぐに試されたい方はやっぱり早い方がいいんですね。それこそ台所の事情にもよるんでしょうか。
あとは、今は御用聞き的に、2週間に1回、次の配送のタイミングにどうですか?と聞くシステムになってます。そうすると「じゃあこれとこれをついでにお願いします」みたいな感覚にもなるのかなと。
たしかに買い方を選べるのは面白いですね。
先ほどもお話しましたが、我々としては2週間ごとに購入いただける方を増やしていきたいので、例えばある商品の需要が高まって、生産が追いつかないという事態になったときには、定期購入してくださっている方に優先的にお届けすることは考えています。
僕は塩が2週間おきに届いちゃったことがあって(笑)。
最初はみんなその事故がおこるんです(笑)。納豆がどんどん届くんですけど、みたいな方もいましたね(笑)。
サイトに書いてはあるんですが、そのあたりはやっていくなかで周知していくしかないですね。
はい。プレローンチ期間中に、そういうことを整理していっている感じです。
お米は細かく注文方法を選べますよね。「2合・12合・30合」「玄米・3分づき・5分づき・7分づき・白米」と、選択肢が豊富です。
最初は生産者の方で精米をしてもらったものをお届けしようと思ったんですけど、やっぱり精米からの日数で確実に劣化してしまうので。玄米でも籾殻で置いておくのがベストなんですけど、さすがにそれは難しいということで玄米にして保管したうえで、注文が入ったら精米して送ることに。となると自分たちで精米するしかないわけで、倉庫に精米のセットをちょっとずつ揃えていきました。
へえ。
精米機を調べていくとわかったんですが、「5分づき」みたいなボタンがあるわけではなくて、20段階のうちこの米の場合はこれくらいの削り具合が「5分づき」といえるだろう、みたいなことをセッティングしていかなないといけないんです。
あとは色彩選別をやるときに、どれぐらいの黒ずみまでを許すかというのも大事で。ちょっと古いお米をやるときなんて、少し厳しめの設定をすると、平気で30%くらいは捨てる選択になってしまったりするんです。どこまでお客さんにこうした黒ずみの部分を理解してもらうか、ということも考えていかなければいけないんです。
ありがとうございます。ハム、ベーコン、ソーセージは取り扱うにあたって、豚から見に行きました。熊本の「やまあい村」という農園で「走る豚」という名前をつけてやってる方なんですが、ここの豚を1頭買いしました。
WEBにある「走るハムエッグ」というのは、放し飼いの卵に、走る豚のことなんですね。
そうなんです。
最近インスタで食材関係のことを見てると、動物保護団体とかの投稿が出てくるんです。豚とか鳥とかをすごく劣悪な状況で育ててるのを見ると、なんだかなって思いますよね。
そういうのが大半っていう現状なんですよね。本当にこだわった人って0.1%ぐらいなので。本当はみんながそうしていかなきゃいけないんですけど、なかなか難しいですよね。
0.1%ということは、1000人に1人。
そうですね、それくらいだと思います。さっきお話しした「伊勢あさくさ海苔」なんかも、今では流通量の0.0001%ぐらいって言ってました。昔はアサクサノリって結構流行ってて、いろんなところで採れたらしいんですけど、淘汰されてほぼ絶滅して。それを三重の伊勢湾の桑名だけが、唯一その種、DNAを引き継いで培養してるって言ってました。放牧の豚なんかもほとんどないと思います。
聞いたことないですね。牛ならともかく。
そうですね、今実際に北海道で何頭か飼っていて。それが出荷するタイミングになれば、まずは会員の方から購入できる状態にしていきたいなと思っています。
それは精肉として販売されるんですか? ステーキ用みたいな。
そうですね。まずは精肉でちゃんと出そうかなっていう話はしてます。加工してしまうとちょっともったいないかなと思いますので。
そうですよね。
食べ物ってつくづく信用の世界だと思うんです。
わかります。日本って、野菜とか肉を外国から買ってたりもするじゃないですか。ああいうのってこっちに着くまでに傷まないように、クスリを入れるわけですよね。そもそも食材を運ぶうえで距離が遠いということ自体に無理があると思うんです。
そう思います。味が全く乗ってない状態で収穫して防腐剤漬けにして、移動で熟成させて。でも、元がないから、どれだけやっても難しいです。
そんなものが信用できるのか、っていう話ですよね。
原材料表示とかもありますけど、あれってどうとでもできてしまう世界でもあって。1回加工品にしてしまえば、1個前のことは表示しなくてよかったりするので。
最近って、無添加って表示しちゃいけないんですか?
何が無添加なのかを明示しなさいという感じなんです。だから例えば発色剤を不使用、無添加といった感じでは表記できるんです。でもその他のも含めて、いちいち全部書いてられないので、結局無添加とは書けなくなったということだと思います。
なるほど。でも、書いた方がいいと思うんですよね。このお店の食べ物も、全部無農薬だからいちいちメニューに書かなくてもいいのでは?っていう話にもなったんです。でも、書けるようなものしか集めてないんだから、書かないと損というか、おかしいだろうって。他所ではなんだかよくわからないものを使ってるところもあるわけだから。あと、ここは洋服屋だからこそっていうのもあるんです。飲食店というわけではないからこそ、ちゃんとやろうみたいな。ちゃんとしたものを食べようと思っても、そういうものが食べられることが少ないし、特にこの1年ぐらいでいろんなことが変わってしまったから、ますます食材への不安っていうのはあると思っていて。
たしかに。お米がこんなふうになるとは思わなかったですよね。
今、外食したらどんなお米が出てくるかわかったもんじゃないよね。価格競争はやっぱりどこもやってたりするわけだけど、なるべく安いとかそういうことだけで判断しないで、ちゃんとしたものを作ってるところにお金を落とす方がいいと思うんですよね。そうすれば、ある程度高くても、みんな商売を回していけるようになると思いますし。
農家さんって、ある種の清貧的な思想があるんですよね。これぐらいの金額までにしておかないと、みたいな。でも意思を持って長い時間をかけて育てた土地や土壌を引き継ぐ人たちがいない状況というのは、そういうことが関係していると思うんです。いい野菜を作って儲かっていたら、ちゃんと続いていくわけで。
最近の若者には、何してるんだかわかんない人がいっぱいいると思うんですよ。そういう人たちが、例えば農家だったり、もうちょっと有意義ないい環境、いい職場みたいなものを見つけられるように、繋いであげるようなことができたらいいなと思うんですよね。どこどこの企業の方がお金がいいとか、そういう理由だけで働くところを判断していったところで、そんな仕事はどうせ続いていかないと思うんです。結局自分の仕事に興味を持てるか、あとはその職場にどれぐらい価値があるのかというのは大事だと思うんですよね。そういう意味では、農業とかすごくいいと思うんです。
みりんは2年連続でやっています。今年は料理人の人がやりたいと手を挙げてくれました。独立を考えている方が、醸造の現場を見てみたいということで、2週間ぐらい朝から晩まで作業してやっていただいてましたね。その方は食というジャンルで、繋がっていたわけですけど、全然違う異業種での経験が糧になるということもあるんじゃないかなって思うんです。それこそファッションの方が麹の文化を学んだら、その経験がどんなふうに昇華されていくのかというのも面白い気がします。
それは本当にそうだと思います。だから、そういう農業の人がファッションの世界とかをちょっと知ることで、こういう視点で物を見る人たちもいるんだみたいなことがわかると、違う扉が開かれるところがあると思います。ファッションの世界の人たちっていうのは、やっぱりよくも悪くも“ファッション”っていうところがあるんですよね。そこの嗅覚がすごくある人たちなので、理屈じゃないところで判断できるところがいいところでもあるというか。
でも、世の中のほとんどのものって、特に男性社会のものってのは理屈がほとんどなので、そこによる行き詰まりのつまんなさっていうのがあるというか。だからファッションの世界も、男の人よりも女の人の方がやっぱり面白いんですよね。女の人は感覚だけで判断してくれるから。男の人はどうしても色々なことに囚われたりしがちなんです。それに陥っちゃうとつまらなくなるから、いい悪いよりも、見た瞬間にこれだ!みたいな感じで判断できる方がいいことってあるんですよね。
農業をやってる人を見ると、感覚的な部分と、成果物の野菜が結びついてくれるから面白いですよね。有機や自然栽培のような一定のセオリーはあるけれど、土壌はそれぞれ異なるので、みんなほとんど想像の世界でやっているんですが、形になるものにはしっかり結果が出てくる。なのでちゃんと数字を見てやってみたりしたら、それはそれでまた違う世界があるような気がします。科学の世界が次の創造に活かされるような、面白さがあるんじゃないでしょうか。
ところで、「Tabel to Farm」はウェブも面白いですよね。原稿とか写真とかのマッチングもすごくいいと思います。
あ、本当ですか。
写真があまり土臭くても違うだろうし、そこそこドライな感じでちょうどいいですよね。農家さんの写真も、清潔感がありつつもリアルな感じが伝わる感じだし、原稿もすごく適切です。
嬉しいです。生産者の方々のところに行くと、いつも結構話し込むんです。だいたい2〜3時間はいますね。なので、1日2か所ぐらいしか回れないんですけど、それは結構大事だなって思っています。
こういう情報が求められている時代になってきたと思うんです。以前はみんなが気になるのが〈NIKE〉の「AIR JORDAN」の話だったのが、だんだんこういうことになってきていて。
僕らも何年やってても、いざ現場に行くとまた新しい情報と出会えるので、もう無限に掘れるんじゃないかって思います。さっき清貧の話をしましたけど、やっぱりみなさん結構安くしてるんですよね。だから一緒に高くしていきませんかっていう働きかけをしているところです。僕らの販売力ってまだそんなに大したもんじゃないんですけど、現状だと今の倍の需要ができても、結局そんなに変わらないと思うので。
原価が上がった分はきちんと価格に反映しないといけないじゃないですか。それが例えば地元の人にいきなり倍ですとは言えないけど、100キロ以上離れたところのお客さんには倍ですって言えるんじゃないかって。そういうことを通じて、農家さんの感覚をちょっとだけときほぐしてあげることが必要だなと感じます。
値段に見合った美味しさを「Table to Farm」では伝えられればいいですよね。
そうですね。お店をやるうえで生産者の方とのコミュニティは本当に大切ですし、それこそ雲仙の「BEARD」なんかはすごくいい一例ですよね。需要と供給がいい感じにぐるぐると循環するような形というか。
そうですよね。いい食材を食べれば体にもいいし人生にもいいよね、みたいなところにみんなが行けるようになるといいですよね。今の時代って、本当にお金の話ばっかりになってると思うんです。「Table to Farm」で提供する食材を使うということは、確かにちょっとお金のかかる食事かもしれないですけど、そこには意味がありますからね。意味のある高さ。もちろんそれが払えないっていう方もいるかもしれないけど、払えるんだったら、それには価値があるんじゃないのかなって思います。
ただ安い服を買って消費することではなく、ばかみたいに高い服を買って消費することでもなくて、ちょうどいい人生の設計のなかに、食事とか洋服ってものがあるってことが、大事なんじゃないでしょうか。
洋服と食に限った話ではないと思うんですが、構造としては一緒ですよね。でも食の方がやっぱりより親密になりうる気がします。服と食で比べたら、食に興味ある人の方が多いと思いますし。
食って、食材を買って自分で作れるじゃないですか。すごくカジュアルに物作りに参加できる権利があるというか。そのハードルの低さが特徴なんですけど、そのときに何を選ぶかってすごく重要で。家だからこそ、1番いいものをちょっとずつ使ってやった方が、たとえ技術がなくても物作りとしては絶対面白いと思います。
こちらで買わせていただいた納豆とかしらすが冷蔵庫のなかにあるっていうだけで、ちょっとした高揚感に繋がっていました。
嬉しいです。みんなもうちょっと寝かせてみようとか、謎のチャレンジを始めてたりするみたいで(笑)。それってもう“始まってるな”って思うんです。
さっき塩の話をしましたけど、昔だったら摂りすぎたら高血圧になるっていう話が、実はミネラル豊富な塩ならたくさん食べた方がいいってことになってますよね。だからいろんなことを、自分で知るっていうのは大事ですよね。それで、健康というか食が楽しくなるというか。
そうですね。現代は情報も多いから受けるだけで終わって、鵜呑みにしてしまうともったいないですよね。一番浅い情報が一番大量に出てると思うので。それに自然なバランスを持った食べ物だったら、多少過剰に摂取をしたとしても、排除していくように身体が機能してくれると思うんです。でも排除する機能を身体が失ってしまうようなものが蓄積されてしまうと、そうならないわけです。そういう意味でも食べるものって本当に重要なんですよね。
本当にそう思います。
オープン日:2025 年7月25日
形態:会員制・オンラインスーパーマーケット
入会金:5,500円(税込)〜
「素の味」協力金:220円(税込)/2週間
Table to Farm オープニング特別企画
西荻窪オルガン、紺野シェフによる『素の味」を愉しむ食事会