長谷川昭雄の対談連載
まじめに働いてんじゃねーよ!!(仮) Vol.01 町田雄二 前編

長谷川昭雄の対談連載 まじめに働いてんじゃねーよ!!(仮) Vol.01 町田雄二 前編 長谷川昭雄の対談連載 まじめに働いてんじゃねーよ!!(仮) Vol.01 町田雄二 前編

Photo:Seishi Shirakawa

Text:Ryo Komuta

REGULAR

ファッションディレクター、スタイリストとして、八面六臂の活躍を続ける長谷川昭雄氏。近年はファッションを基軸にしつつ、自身のクリエイションに多様なジャンルのアイデア、ムードを取り込んでいく、ピポッド的なムーブが活発です。
本連載は、仕事に真面目な長谷川氏がさまざまなジャンルの識者たちと、“仕事”について真面目に対話していく企画です。第一回のお相手は、旧知の仲である『ポパイ(POPEYE)』編集長の町田雄二氏。真夏の鎌倉、由比ヶ浜海岸の海の家「パパイヤ」にて、思う存分語っていただきました。

PROFILE

長谷川昭雄

ファッションディレクター、スタイリスト。英国の雑誌『モノクル(MONOCLE)』の創刊より制作に参画、ファッションページの基礎を構築。2014年には同誌のファッションディレクターに就任。2012年から2018年秋まで雑誌『ポパイ』のファッションディレクターを務めた。2019年よりフイナムと共同でファッションウェブマガジン「AH.H」をスタート。

町田雄二

『POPEYE』編集長。2001年マガジンハウスに入社。『anan』、『BRUTUS』の編集部を経て、2019年末より現職。

フイナム
フイナム

長谷川さんは、自分は編集者に鍛えられたところがあるとか、編集者の立ち位置、重要性みたいなことについてよくお話しされてますよね。というわけで、仕事についての対談連載「まじめに働いてんじゃねーよ!!」。初回のお相手はマガジンハウスの雑誌『ポパイ』の編集長、町田雄二さんです。

町田
町田

えーと、何を話せばいいんだっけ?(笑)

長谷川
長谷川

まぁ、編集者についてっていうかさ。俺って真面目じゃん? 中途半端な仕事が嫌いなんだよ。だからそれを熱心に語り合いたいなぁと思って、まずは一番身近な仕事である編集者について、マッチンと話せたらいいなと思って。

町田
町田

そっか。でも、それについて語るのって難しいよね。

長谷川
長谷川

編集者って、自分でどういう仕事だと思ってるんだろうね。人それぞれ違うと思うんだよ。例えば木下(孝浩氏。『POPEYE』編集長、現「UNIQLO」)さんなんかは、自分の編集者としてのスキルを違うものというか、違う職業に転換していったというか。

町田
町田

そうだね。木滑(良久氏。『POPEYE』初代編集長)さんなんかは「編集者とは何かになる途中の職業だ」みたいなことを言ってたけど。よく言う話だけど、編集者って何もできないっていうかさ。まぁ原稿ぐらい書けるかもしれないけど、写真も撮れないし、スタイリングするわけでもないし、何してるんだかわからない職業だよね。撮影のご飯を手配したり、スケジュール管理したり、ペンキ塗れって言われたらペンキ塗るし、なんでもやるっちゃやるんだけど、雑誌作りの中で実際何やってんのかよくわからない職業の代表格っていうか。みんな編集者っていう職業は知ってるけど、何をしているのかは一般の人が一番わかりにくい職業なのかもね。

長谷川
長谷川

そうかも。

町田
町田

なんだろうね、編集って。なんか、わかるようなわかんないようなところがあるっていうか。

長谷川
長谷川

例えばミニカー雑誌の編集者だったら、やっぱりミニカーに詳しかったりするよね。そうするとミニカー専門家みたいな話になってくるじゃない。

町田
町田

まぁ、その分野に詳しくなるとどうしてもね。

長谷川
長谷川

それってミニカーの世界で生きていくなら当たり前なんだろうけど、編集者の世界でいうと、ちょっと込み入った編集者像になってくるよね。専門家の域になっていく。そういう意味では、一般誌の編集者って何も知らないのもありというか、何者かにならなくてもいいのかもしれない。俺みたいに専門職の人からすると、自分の仕事の専門的な話についてわかったようなことを言われると複雑な気持ちになるからさ。あってもひけらかさない人ならいいのかも。一緒に働く人にマウント取るとか、そういうのいらないし。愛を与えられてしっかりサポートしながら引っ張って行ける人が編集者なのかと思う。何者かになってしまうと、編集者ではなくなってしまうというか。

町田
町田

何も知らなくてもいいのかな?(笑)

長谷川
長谷川

いやでも、実際はいろいろ知らないとおかしいんだけど、なんて言うんだろうな、、知らないふりをしてる方がいい空気でいられるんじゃないかな。

町田
町田

いい編集者とは、面白いことを知ってる人をたくさん知ってることだ、っていう言い方もあるよね。別にその人自身が博識で何でもやってしまう必要はなくて、面白いことを知ってる人をたくさん知ってる人がいい編集者。

長谷川
長谷川

(スタイリストの山本)康一郎さんもよくそういうことを言ってるよね。

町田
町田

やっぱり1人の人間が入れられる知識って、、

長谷川
長谷川

限りがあるからね。

町田
町田

そうそう。色々入れすぎても、読者の感覚や共感から離れていっちゃう場合もあるしね(笑)。面白い視点で物事を考える人をたくさん知っているっていうことが大事なわけでさ。

長谷川
長谷川

そうだね。あと思うのが、編集を違う仕事に置き換えていったときにどうなるんだろう、ってことなんだよね。

町田
町田

どう置き換えていくのか、みたいなね。例えば岡本(仁氏。元『relax』編集長)さんは「マガジンハウス」を辞めていったとき、編集の力はいろんなものに使えるし、雑誌以外にもいろんな仕事で役立てる、全ては編集なんだ、みたいな感じだったんだよね。結局、編集ってなんなのかって、一言では言い表せないよね。木下さんはその編集力みたいなのをどう使ってるんだろうね、今の会社で。

長谷川
長谷川

キュレーションってことじゃないかな。

町田
町田

キュレーションか、たしかにね。雑誌の編集もやっぱりチームビルディングだったりするよね。スタッフをどう集めるのかが、仕事のほとんどだと思う。編集長の場合は、編集部員を誰にするかはもちろん、校正さんを誰にお願いするか、デザイナーを誰にするか、もっと言うと営業を誰にしたいとか、そんなふうに会社組織の内外に目を配って大きい青写真を描ける方が良いよね。個々の編集者の立場で言えば、いいカメラマン、いいライター、いいコーディネーター、あとはロケバスだってすごく重要だよね。撮影って空気感だから。

長谷川
長谷川

そうだね。合わないとストレスになるしね。

町田
町田

そういうことがうまくいってないと、スムーズにいくはずが全くいかなくなっちゃうとかってよくあるからね。だから空気をうまくまとめられることが、編集力みたいなところはあるよね。木下さんが今どういうことをやってるのかは全然知らないんだけど、何かを 今「UNIQLO」でキュレーションしてるってことなのかな?

長谷川
長谷川

多分ね。

町田
町田

それで言えば、編集だけじゃなくてスタイリングの領域もかなり拡大してきたよね。

長谷川
長谷川

そうだね。この前、(フォトグラファーの)高木康行さんに会ったときに「ハセくんは最近よく飲食店を取材してるじゃない。今はああいうのがファッションだと思うんだよね」っていう言い方をしてて。“ファッション”っていう言葉を悪い意味で使う人もいると思うんだけど、高木さんは完全にこちら側の人だから、もちろんいい意味で言ってるんだと思うのね。それを聞いて、たしかにそういうところあるよなって思った。例えば、ワインとかワインカルチャーみたいなものはある意味、今の時代のファッションのニュアンスに近い気がする。

町田
町田

洋服だけじゃない。

長谷川
長谷川

そうそう。昔からカフェカルチャーとかはあったけど、それとは少し違うような。2010年ごろのコーヒーブームを経て、より対象物やそこへの関わり方が明確になってるっていうか。たとえばTシャツを買うことと、どこかでワインを飲むことは結構同じであると思うんだけど、Tシャツって言っても今の時代はどこのボディなのかが大事だったりするじゃない? コットンの無地でも〈CAMBER〉や〈LOS ANGELES APPAREL〉がいいっていう時代を経て、プリントTにですら生地の厚さを求めている時代になってる。一方でTシャツにそこまでお金を出したくない人がいたりするように、酒は安いほどいいって人がいるみたいなところが、ファッションの置かれている世界と似てるように思う。どっちも好きな人と、どっちかしか好きじゃない人がいたり。でもワインの世界が、環境問題とかモノづくりの背景への配慮の話を大事にしている文化である部分は、ファッションの抱える課題につながるポイントであったりして、学びが多いなって思う。いずれにしても俺のスタイリングっていう部分は、生活の一部に拡大されて現実とリンクしていっていて、ワインはそのなかにあるのは間違いない。そういう意味では、たしかにスタイリングっていうものが拡大されていってるよね。

町田
町田

大きくなってるのは感じるよね。

長谷川
長谷川

つまり感覚を置き換えてるっていう意味だから、スタイリングも編集作業と同じなのかもね。もう生きてることが編集作業をしてるっていうことなのかもしれないし。

町田
町田

そうだよ(笑)。

長谷川
長谷川

「UNIQLO」は多分すごく先進的な会社なんだよね。

町田
町田

なるほど。

長谷川
長谷川

どこかの企業とかブランドの仕事をするときに、みんな編集者の存在をないがしろにしてるよな、って思うことがよくあるんだよね。例えばご飯とかロケバスなんかどこだっていいとか、あとはモデルも誰だっていいって思ってるような節があって。そういうことの積み重ねがそのブランドをダメにしてるような気もするんだよね。

町田
町田

大事だよね、そういうのは。

長谷川
長谷川

たとえば海外ロケでさ。

町田
町田

うん。

長谷川
長谷川

海外のハンガー、特にパンツハンガーってクズみたいなのばっかりだし、基本的にロクなのがないんだよね(笑)。でもちゃんと探せばあるわけ。俺は一時期、めちゃめちゃ海外ロケに行ってたから、どこでどういうものを買えばいいのかがわかってるんだけど、ファッション撮影に慣れてないコーディネーターにお願いすると、全然使えないハンガーラックを買ってくるんだよ。かけた瞬間に崩れ落ちるようなハンガーラックとか、何度挟んでも落ち続ける、コントみたいなパンツハンガーが出てくる(笑)。海外には基本的にはそういうのしか売ってないんだけど、売り場でよく見ればきちんとしたのがある店もあるわけ。そっちがないと意味ないじゃん? そもそもそういうことをちゃんとわかってくれるコーディネーターを知ってるかってことが、撮影を進めるうえですごく大事だよね。

町田
町田

いいものを作るって、どこまで細かく気を配れるかみたいところがあるよね。けど、そういう細かいことがその後の撮影にどう関わってくるのかは、経験することでしかわからないから、いちいち説明してはいられない。そういうことって、とにかくたくさんあるしね。そういう意味で言うと、さっき生きてることがイコール編集、みたいな大きい話になったけど、それに近いものがあるのかな。

長谷川
長谷川

うんうん、わかる。あと、とくにファッションエディターっていうのはほんとに特殊な職業だと思う。だからある意味でミニカーの編集と同じなんだよね。ビジュアルに落としこむことが主たる仕事だからさ、いろいろな服やブランドやトレンドを知ってるってことよりも、この作ったビジュアルを世間に出したときに起こる衝撃を大事に思えるかどうかだよね。フォトグラファーなんかそこで生きてるわけだから。スタッフ間で目指す方向が同じであるかどうかだったり、スタイリストがやりたいことを理解しているかどうかとか、そもそもの感覚の共有ができる人かどうかが大事だよね。そのためには、みんなが疲れているときに水を買ってきてくれるとかそんなことでもいいと思う。ある意味、お母さん。原稿受け取ったら嘘でも最高だね!って言ってみたりさ(笑)。知識よりもそんな優しさとか、過酷な現場でもついていく体力の方が大事だと思う。写真のトレンドなんかもさ、知ってるのはいいかもだけど、それを踏襲したらただのパクリになってしまうから、つまらないことは知らなくていいし。でもそこへ向かおうとしてる写真家には助言をするだけの知識がないと統率できなくてやっぱバカにされるのかもだし。小さなことが大きく結果を変えるから、そこを大事にする人にしかできない仕事だよね。

町田
町田

そうだね。それで言うと、その人がそのままページに出ちゃうっていうところが、雑誌編集って仕事にはあると思う。

長谷川
長谷川

あるよね。最近またNBAに興味を持ち始めて色々調べてるんだけど、とあるチームの練習を見に行ったっていう人の話を見てさ。そこでは1人の選手に対して4人のコーチがいるのね。そのコーチたちはものすごくディスカッションをして、どういうふうにプレイを良くしていくかっていうことを話し合いながら練習をしてるの。で、なんでコーチが4人なのかっていうと、バスケって5人だから、その選手に対して4人のコーチを入れて、どの位置でどの速さでどういうタイミングでパスを出すとか、全部実戦に近い状況を作って練習するんだって。

町田
町田

なるほど。

長谷川
長谷川

いつもNBAとかを観てて、試合中の際どいシーンのものすごいスピードのパスなんて、どうやって認識するんだろうって思ってたんだけど、そういう練習をしてるからできるんだなって思った。こういうことの積み重ねをしていかなかったら、いいものなんて作れない。

町田
町田

実践を繰り返していく、みたいなことだよね。

長谷川
長谷川

そう。やっぱり実践って大事なんだよ。それで見えてくるものって全然違うし。なんとなく練習して、あとは個人のスキルで任せますみたいなことをやってると、試合の本番なんて全然違うムードだから緊張もするし、わけがわかんなく終わっちゃう。

INFORMATION

PAPAYA

住所:神奈川県鎌倉市由比ガ浜4丁目由比ガ浜海岸
電話:0467-24-9338
営業期間:~2024年9月1日(日)
時間:9:00~18:00 期間中無休
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