海外はやっぱり景色がちがうね。<br>
Vol.1 テ・アラロア(ニュージーランド) 海外はやっぱり景色がちがうね。<br>
Vol.1 テ・アラロア(ニュージーランド)

HANG OUT VOL.1 LONG TRAIL

海外はやっぱり景色がちがうね。
Vol.1 テ・アラロア(ニュージーランド)

自由気ままに旅することがロングトレイルの魅力なら、海外で歩く道のりでは、一層の開放感を味わえるだろう。日本にはないダイナミックな地形を、異文化に触れながら旅する。トレイル経験豊かな3人の話を聞くと、海外もいいなって思えてきた。

Chapter 04

2024.09.02

Text:Takashi Sakurai

Edit:Hideki Shibayama

HANG OUT VOL1
Chapter 04 | Long trails overseas

PROFILE

根本絵梨子 / 写真家

根本絵梨子 / 写真家

スタジオ勤務、アシスタントを経て2016年よりフリーランスのフォトグラファーとして広告や雑誌などの分野で活動。ライフワークとして山を頻繁に歩き、山小屋での暮らしも経験。自然の写真を撮り続けている。2022年に開催した写真展『今日はここまで』では、モンゴルや南米、日本での旅で撮影した風景写真を展示。神田のTERRACE SQUAREでテ・アラロアでの旅の写真が9/20まで展示中。

01. テ・アラロア(ニュージーランド)

テ・アラロアとは、マオリ語で長い道のりという意味で、ニュージーランドの北島と南島を縦断する約3000キロのロングトレイル。写真家の根本絵梨子さんが歩いたのは、南島の約1300キロ。宿泊はテント泊の他に、ハットと呼ばれる山小屋があり、そこでの人との出会いも魅力。約2ヶ月かけて山岳地帯や湖沼地帯、深い森など様々なロケーションを楽しんだ。

歩いて、撮って。シンプルな生活。

人生初の本格的なロングトレイルなのに、事前準備はほとんどしていなかったんです。仕事でバタバタしていて、出発3時間前にパッキングしてたくらいですから。だからプランとかもぜんぜん決めていなかった。各セクションがどのくらいかかるかもわかっていなかったですし、そもそも、1日に自分がどれくらい歩けるかも不明でした。

最初は小さなノートに、なんとなくの宿泊予定のハット(山小屋)の位置は書き込んでいたんですが、2日目にORANGEMANというニュージーランド人と、FREYAというアメリカ人とハットで一緒になったんです。2人ともPCT(パシフィック・クレスト・トレイル)スルーハイクの経験があって、ORANGEMANはテ・アラロアもすでに一度歩いているし、FREYAもトリプルクラウン(アメリカ三大トレイル踏破)。これはすごい人たちだ〜と思って、明日の予定を聞いてみたんですが、2人ともかなりアバウトなんです。「まあ、前に進むだけだよ」っていわれて。でも、そのときはどういうことだかよく分からなかったんですよね。

結局、その2人とは2、3週間くらい経ったころから一緒に歩くようになったんです。そうして1ヶ月ほど経った頃には、気付いたらノートをつけることもしなくなっていて。「ただ前に進むだけ」という状態になっていたんですよね。

宿泊地などもその場その場で決めるようになっていました。そのときに「わたし、本当にニュージーランド歩いている」と実感したのを覚えています。1ヶ月が経って、ようやく状況にフィットしたんでしょうね。

それまでは、今日はどのハットまで歩かなきゃとか、いつまでに街に降りるかとか、どうやって街に行くかとか、いろいろ考えていたんですけど、どんどんシンプルになっていった。足が痛いと思ったり、夜は何食べようかと考えることはあっても、歩くことと生きるためのこと、あとは写真を撮ることだけ、する。その状況が本当に幸せだなぁって。

でも体力はあったんですが、最初に履いていた靴がぜんぜん合わなくって。これもまあ準備不足のせいなんですけど。毎日、最初の15分だけ痛くないけど、その後はずっと痛いという状況が続いていたので、肉体的キツさはありました。そんなときにInstagramで足の状態とかをストーリであげたんです。そしたらフォロワーさんに理学療法士の方がいて、マッサージ方法とか足のケアについていろいろと教えてくれて、すごく助かりました。

ひとより荷物も重かったと思います。一番重いときは18キロくらい。カメラ機材に加えて、今回はフィルムを250本撮ったんですよ。120本くらい日本から持って行ったんですけど、それが600キロくらいのところで尽きてしまったんです。だからヒッチハイクして2時間かけてクライストチャーチに行って、フィルムを調達しようとしたんですが、在庫がぜんぜんなくて…。そのお店にあるフィルムを全部買いました(笑)。結局はアメリカから輸入して、友人のところに送ってもらってなんとか調達できたんですが、そのクライストチャーチの現像所ではちょっとした有名人になってたみたいです。というのも、途中の町からそこにフィルムを送って現像してもらっていたんですが、その量がすごいからびっくりしたんでしょうね。「エリコからまたフィルム届いたぞ〜」みたいな感じで。超大型顧客だったと思います(笑)。

そもそも、ゴールできるかどうかも分からないなあと思ってました。そんな距離を歩いたことがなかったし、テ・アラロアが楽しいかも分かっていなかった。実際に行ってみたら、セクションごとに景色も変わってくる。海沿いを歩くセクションが終わったら、南アルプスみたいな場所が出てきて、そのあとは湖がたくさんあったり、それから草原、みたいに景色がめまぐるしく変わっていく。

綺麗に整えられている道ももちろん良かったんですが、それよりも道なき道を行くほうが好きでした。自分で歩くルートを決めていく。もちろん失敗もありましたし、濁流みたいな川を渡ることもあります。これまでやったことのないことが、次から次へと起こって、冒険感があってまったく飽きないんです。

もともと未知なものに惹かれるんですが、歩けば歩くほど、まだまだ未知が待ち構えている。素敵ですよね。

極めつけは、終盤のセクション。50キロ、泥の道。しかも雹が降るような寒い日で。キツイと言われていたリッジモンド山脈なんかより、体力的に辛かった。場所によっては膝くらいまで埋まるんですよ。人によっては胸まで埋まるとか(笑)。このセクションは飛ばす人も多いんですが、こんな泥のなかを歩くなんて今後の人生でもきっとないし、どんなものか見たかったという好奇心が勝っちゃいました。

もうひとつ、この泥セクションに絶対行きたかった理由があるんです。一緒に歩いていたORANGEMANは、事情があって泥セクションは一時離脱してたんですが、彼は泥セクションが終わるポイントで、週に2、3回ビールを振る舞うトレイルマジックをやっていると聞いていたので、きっとそこで会えるはずだって。

そしたら予想通り、ビールとBBQセットを用意して待っていてくれたんです。クルマが通れる道なんかないですよ。50キロくらいの荷物を担いで来てくれた。人生最高のBBQパーティでした。

私にとっては、今回の旅は人生を変えてくれた、とかそういう感じではないんですけど、もうとにかく毎日幸せでした。ずっと歩いていたかったです。半分くらい来たときには、そのまま往復しちゃおうかな、とかいってましたしね。

いろいろ考え込んじゃうタイプなんで、テ・アラロアを歩いているときのシンプルな暮らしは自分自身をリセットできる感覚がありました。私は定期的に1ヶ月くらいシンプルな暮らしをしないとダメなのかもしれません。それは今回のようなロングトレイルでもいいし、山小屋で働くのでもいい。シンプルさを日常にできる状態。それが必要なんだと思います。

写真を撮るために旅に行くわけではないんです。行ってみたい場所があって、いい写真が撮れたらラッキー。撮れますように、っていう感覚です。どんな景色や人との出会いが待っているかもわかりませんから。

今回のテ・アラロアでは好きな写真がたくさん撮れました。フィルム250本。それがなによりいい旅だったと実感させてくれます。

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