海外はやっぱり景色がちがうね。<br>
Vol.2 パシフィック・クレスト・トレイル(アメリカ) 海外はやっぱり景色がちがうね。<br>
Vol.2 パシフィック・クレスト・トレイル(アメリカ)

HANG OUT VOL.1 LONG TRAIL

海外はやっぱり景色がちがうね。
Vol.2 パシフィック・クレスト・トレイル(アメリカ)

自由気ままに旅することがロングトレイルの魅力なら、海外で歩く道のりでは、一層の開放感を味わえるだろう。日本にはないダイナミックな地形を、異文化に触れながら旅する。トレイル経験豊かな3人の話を聞くと、海外もいいなって思えてきた。

Chapter 04

2024.09.02

Text:Takashi Sakurai

Edit:Hideki Shibayama

HANG OUT VOL1
Chapter 04 | Long trails overseas

PROFILE

増田翔さん / モデル

増田翔さん / モデル

はじめての登山は2018年の甲武信ヶ岳。その後、登山雑誌の撮影がきっかけで頻繁に山に登るようになる。PCTスルーハイクは人生初となるロングトレイル。〈VIVO BAREFOOT〉というベアフットシューズのヘビーユーザーでもあり、どこでも素足感覚でガシガシ歩くタフな青年。

02.パシフィック・クレスト・トレイル(アメリカ)

メキシコ国境からカナダ国境までの約4300キロを繋ぐパシフィック・クレスト・トレイル(PCT)。スルーハイキングに要する期間は4〜6ヶ月間で世界有数の長距離トレイル。コンティネンタル・ディバイド・トレイル(CDT)、アパラチアン・トレイル(AT)と並ぶ、アメリカ三大トレイルのひとつ。増田翔さんは南から北へと抜けるNORTH BOUNDで歩いた。

日常の当たり前が、当たり前じゃない世界。

コロナ禍が始まる直前くらいの時期に、山岳小説や旅をテーマにした本をたくさん読んでいたんです。そのなかに加藤則芳さんの『ジョン・ミューア・トレイルを行く』や『メインの森を目指して』といったアメリカのロングトレイルをテーマにしたものもあって、それで興味を持ちました。

でも、そこからコロナがはじまってしまい、収束する頃には、ぼくのロングトレイル熱もちょっと落ち着いてしまって。このままだと行かないな、というふうに思ったので、なかば勢いで、パーミット(許可)とか、ビザを取りはじめた感じです。

海外旅自体もそれまで1回しか行ったことがなかったし、ロングトレイルもはじめて。英語もぜんぜん喋れなかったので、そもそもスタート地点に辿り着けるのか、というところから不安でした。

歩いたのはPCT。アメリカ西部の約4300キロを4ヶ月ほどかけて旅しました。スルーハイカーの人数が多いこと、途中で街にアクセスしやすいということがPCTを選んだ大きな理由です。あとはアメリカらしいダイナミックな風景がたくさんありそうだったということも大きいですね。

景色に関してはもう、全部素晴らしかった。だからどこがよかったとかピンポイントではないんですよ。強いていうなら、マウント・ホイットニーという山に向かうまでの道中が好きです。ジョン・ミューア・トレイルの最後のセクションでもある場所なんですが、雪の影響で、そこは一度スキップして旅の後半に戻って来た場所なんです。だからこれまでも3ヶ月くらい素晴らしい風景を見続けてきた後だというのに、まだこんな景色が待っていたのか、という驚きがありました。信じられないほど透き通った湖があり、その奥には険しい峠が見えて、真後ろには4000メートル級の山々がある。それまではけっこう速いペースで歩いていたんですが、そのエリアに関しては何回も休憩して、時間を忘れて過ごしました。

もうひとつ印象深かったのは、ひととの出会い。ぼくはビザの関係で他のスルーハイカーよりもちょっと遅めのスタートだったんです。だから最初のうちはほとんどひとに会わなかったんですけど、途中からは本当にいろんな縁がありました。1週間ほど一緒に歩いたハイカーと、まったく別の場所でばったり再会したり。そんな偶然の再会がたくさんあって、彼らとの交流は旅を終えたいまでも鮮明に覚えています。ハイカーだけでなくヒッチハイクで乗せてくれたひともいたりと、多くの優しさに触れた旅でもありました。ロングトレイルの中毒性は、そういう出会いにもあるのかなと思いますね。

旅の終わりを迎えたときに真っ先に感じたのは達成感というよりも「もう帰らなきゃいけないのか」という寂しい気持ちでした。可能であればずっと歩き続けたかったですし、いまもまた行きたくてウズウズしてます。ちなみに、来年はアメリカのど真ん中を貫くCDTに挑戦する予定です。

「そんなに旅ばかりして、日常とか仕事に対する不安はないの?」と聞かれることもあります。もちろん不安がないわけではないんですが、行きたいという気持ちのほうが断然強いんですよね。

クライミング、トレイルラン、スノーボード、MTBなど登山がきっかけで始めたアウトドア遊びはたくさんあるんですが、ぼくが感じているロングトレイルの持つ特別な魅力は「絶対やらなきゃ」というルールがないところだと思います。スタート地点とゴール地点はあるけど、それを守らなきゃいけないわけでもなく、期間も時間が許す限りどれだけ長くなってもいいし、セクションで分けて歩いたっていい。仮に同じトレイルを歩いたとしても出会いや出来事は人それぞれ。自分オリジナルの旅を経験することができる。やることは歩くことだから、上手い下手もありません。そういう自由で緩いところがぼくの性格にもあっているんだと思います。

ロングトレイルって、楽しいことだけじゃなくて、辛いこともあるし、悲しいこともある。体は常に疲れてますし、汚いです。でも快適な日常だけを過ごしていたら気づけない幸せがあるんだなと、この旅を通じて知りました。温かい食べ物だったり、冷たいビール、シャワー。そういうものって実は当たり前じゃないんだなって。不便を味わったからこそ、ありがたみを本当の意味で実感できたんだと思います。

10年後、またPCTを歩きに行きたいです。1回見た景色をもう一度見たいというのもあるんですが、その頃には物事の捉え方も変化しているはずなので、10年後の自分が10年後のPCTを歩いたらどんなことを感じるのか、いまからとても楽しみです。

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