長谷川昭雄の対談連載
まじめに働いてんじゃねーよ!!(仮) Vol.04 ZORN 前編
ファッションディレクター、スタイリスト。英国の雑誌『MONOCLE』の創刊より制作に参画、ファッションページの基礎を構築。2014年には同誌のファッションディレクターに就任。2012年から2018年秋まで雑誌『POPEYE』のファッションディレクターを務めた。2019年よりフイナムと共同でファッションウェブマガジン「AH.H」を、2023年より〈CAHLUMN〉、「andreM hoffwann」をスタート。
1989年生まれ。東京都葛飾区新小岩出身のラッパー。
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※対談の前半は「AH.H」にて公開しています。
ところで今回の対談では、ファッションの話はしなくていいんですか? ハセさんのそういう話をみんな聞きたいんじゃないですか?
どうだろうね。
ハセさんのインスタの文章、あれって有料レベルだと思うんですよね。ハセさんの文章って洋服だけじゃなくて、生活ごと全部を切り取ってるじゃないですか。あれってなんかすごいものが欲しくなるんですよね。
歳をとってきて、視点が変わってきたからね。例えば政治のこととかさ。実際、国会中継とかSNSの過激な政治発言の投稿っていうは、人気映画とかドラマの盛り上がりに近いし、実生活に結びつく問題で、そこに興味持たない方が不思議。世の中にあれ以上によくできたストーリーってないと思う。ただあんまりそういうことを言うとややこしいよなって思うから、ほどほどにした方がいいなと思ったりもするんだけどさ。でもあまりにもみんな関心がないし、そういうことに興味がないと、結構、日本はやばいんじゃないかなって思うんだよね。
最近ずっと言ってますよね。
だって自分はともかく、若い子供世代が大きくなったらどうなっちゃってるんだろうって思うじゃない。
たしかに。子供持つとそこは実感が違うかもしれないですね。ちなみに今、ファッションに興味はあるんですか?
あるよ。結局ファッションにどっぷりだからさ。暇つぶしみたいな感じで、政治とかに走ってるところがあるんだよね。あとなんていうのかな、今のファッションを見てて、なんだかなって思うことがすごくあるんだよね。
その話聞きたいです。
こないだ、とある仕事でファッションブランドのプレスルームをたくさん見て回ったんだけど、自分が好きだなって思ってきたブランドは、やっぱりかっこいいし間違ってないなって思ったんだよね。本当にかっこいいものを作ってるし、オリジナリティがある。そういうのが大事だと思う。自分の表現がなんなのかということに対して、ちゃんと追求してるかどうか。ラップだってそうでしょ? その人らしさがないラップなんてどうでもいいわけじゃない。
そうですね。
今って似たり寄ったりのブランドがすごく多いんだよ。オリジナリティなんて全くないような。人のファッションを見てても、この人ってなんでこういう服を着るんだろうって思っちゃうんだよね。まぁ、人が何を着てたっていいわけなんだけどさ。でも、全くオリジナリティのない服とか、何かをパクったような服について「いいね」とか言ってる人を見ると、こいつは何もわかってないなって思ってしまうんだよね。
でも、だいたいの人が何もわかってないですよね?(笑)
そうかもね。だから世の中に腹が立つのかもしれない(笑)。でも、表現するっていうことはそういうことだと思うんだよね。音楽だって映画だって何もかもがそう。それがない人とのセッションは意味がないし、つまらないなって思ってしまう。作る人の数だけクリエイティブが存在するはずなのに、みんな同じような方向を見て、人気のブランドに引っ張られるようなことをしなくてもいいのになって思ったんだ。
こないだ(ジョルジオ・)アルマーニさんが亡くなったじゃない? ちょっと前にアメリカ人にインタビューされて「世の中が注目していないんだけど価値のあるものはなんですか?」っていう質問に「ジョルジオ・アルマーニ」って答えたんだ。
へぇ。
アルマーニさんって全然評価されてないって思う。いやもちろん評価はされてるんだけど、全然まだまだっていうか。でも亡くなったら、いろんな人がコメントを出していて。ラルフ・ローレンさんとかポール・スミスさん、ステファノ・ピラーティさんも出してたね。イタリアでメンズファッションを代表するデザイナーって、意外とそんなにいないんだよね。やっぱりウィメンズのファッションの方がマーケットが大きいし、みんなそっちの方に行きがちだから。亡くなったことでさらに再評価はされていくんじゃないかなって思う。
影響を受けたラッパーって誰かいるの?
いっぱいいますよ。ガキの頃から聴いてたラッパーにはみんな影響を受けてると思います。一番最初は王道なヒップホップから好きになって、でもだんだんそれだと物足りなくなってきて。だいたいアンダーグラウンドのものの方が深いことを言ってるとか、芸術性が高いとかで、そっちにいくんですよ。
そうなんだ。
そっちの人たちの方がうまかったりするというか、感じ入ることが多かったりはするんです。小難しいことをしていたりするし。でも一周するとまた王道の方に戻ったりもしますね。聞くのもそうだし自分がやるのもそうです。で、実はそっちの方が難しかったりして。でも、アングラなものって絶対通るんですよね。
それはすごくよくわかるよ。『POPEYE』も若者をターゲットにした雑誌だから、スタッフも若者がやればいいと思ってる節がある気がするんだけど、そんなことはなくて。リニューアルしたときは、いろんなところでいろんな経験を積んだスタッフたちがやったからうまくいったわけで。それには技術とか知識が必要なんだ。そういうスタッフが集まったうえで、わかりやすく作ってあげたというか。
そういうことですよね。ハセさんが関わったリニューアルって何年ですか?
2012年。
その号の表紙を見てコンビニで買ったんですよね。そこから今日までの『POPEYE』、全部持ってます。
そうなんだ。場所がもったいないから捨てた方がいいよ。物っていうのは置いておくだけでそこに家賃がかかるわけだから、きちんと全部に目を通して、いいものだけに選りすぐって、質の悪い号は捨てた方がいいよ。
なるほど。ポパイを買い始めたときって、スタイリストっていう職業のことを知らなくて。単純にこの雑誌がいいなと思って買ってるだけなので、それを誰がどういう風に作ってるとか全然わかってなかったです。で、そのうちだんだんわかってきた感じなので、10代後半とか20代前半くらいの若い子は、どのスタイリストが何をやってるかとかはあんまり気に留めないでしょうね。
音楽でも、プロデューサーとかディレクターを見ないっていうのと一緒かもね。
そうかもしれないです。で、長谷川昭雄っていうスタイリストを知ってから、直感でこの人が日本で一番かっこいいスタイリストだなって思ったから、ずっと一緒に仕事がしたかったんです。なんでこの人の手にかかると、なんでもないものがこんなにカッコ良くなるんだろうって。とくに靴下がずっと気になってたんです。
『POPEYE』で一番やりたかったことは、靴下の話をすることだったんだよね。
そうなんですね。
靴下ってだいたいないがしろにされがちなんだけど、スタイリストとしてはコーディネイトを決めるときに、靴とか靴下ってすごく重要で。基本、見えないんだけど、ふとしたときに見えるじゃない? そのときに変なものを履いてたらいやなんだよね。だから『POPEYE』のリニューアル1号目でも、靴下の寄りのページを作らせてもらったんだよね。そこが一番重要でどうしても伝えたかった。
昔、〈NUMBER (N)INE〉のショーでは、宮下さんはモデルに絶対下着を履き替えさせてたっていう話があって。〈NUMBER (N)INE〉のショーの最後って、みんな下着で出てきてて。やっぱり見せたかったと思うんだよね。下着は服のフォルムに影響してくるから、太いズボンを履かせるなら、トランクスの方がいいんだよ。フォルムを支えてくれるから。あとはお尻がない人も、トランクスの方がフォルムを整えてくれる。でも細いパンツだったら、ピタッとした下着の方がいいわけで。そういうふうに見えないものにもお金と気を配るのはすごく大事なんじゃないかなって。
子供たちというか、中高生も〈Calvin Klein 〉の下着とか履くと、わざと見せるような格好をしますよね。彼らにとってはすごく高いものだから、見せたいっていう。
あぁそうだね。お金をわざわざかけてるんだから見せたいとか、見えないところだけどお金をかけてみたいとか、そういう精神性っていいなって思う。プリミティブな部分というか。だから変な服を買うんだったら、〈Calvin Klein 〉の下着を買って、白いTシャツを買えばいいのにって思う。
でも、若い子を見てて思うんですけど、やっぱりガチャガチャの服を通らないと、無地には辿り着かないですよね。
あぁ、そうかもね。
B-BOYもそうですもん。でも結局あるところで「無地でいいかな」ってなるんですよね。自分は高一くらいでそうなってた気がします。
だんだんおじさんになると、無地なんだけど高いものを買うようになったりして。でも高いんだけど、高く見えないようなものがいいとか、いろいろあるよね(笑)。
中編に続く。