高橋ラムダのスタイルコード。
Vol.1 スタジアムジャンパー

高橋ラムダのスタイルコード。<br> Vol.1 スタジアムジャンパー 高橋ラムダのスタイルコード。<br> Vol.1 スタジアムジャンパー

Photo: Haruto Inomata

Edit: Soma Takeda

COLUMNFASHION

スタイルとは、ただ服をおしゃれに着こなすことではない。服そのものが持つ歴史や文化、そしてそこに流れる時代の空気を知り、自分なりに咀嚼してこそ、はじめて形づくられるもの。本連載では、スタイリスト・高橋ラムダの私物とその着こなしを手がかりに、スタイルの背景を紐解いていく。第1回目のテーマは、スタジアムジャンパー。

アメリカとヨーロッパを掛け合わせたニュートラスタイル。

コミューン H
コミューン H

第1回目のテーマはスタジアムジャンパー(以下スタジャン)です。これが、いまのラムダさんの気分ということでしょうか?

ラムダ
ラムダ

そうですね。最近、アルマーニさんが亡くなったけど、たまたま〈エンポリオ アルマーニ〉だったり〈アルマーニ ジーンズ〉とか、彼がつくった服を気に入ってよく着ていて。その時代のものを掘り下げていったら、〈ラルフ ローレン〉とはまた違う、イタリア系のニューヨーカーみたいなアメカジというか…ヨーロッパとアメリカをミックスしたニュートラのスタイルがかっこいいなと思ったんです。

 

それとはまた別軸の話で、MCハマー辺りの人たちの着こなしを見ると、ハイウエストにシャツをインして、ファットなボンバージャケットを羽織っていたりして。特にボンバーの丸いシルエットがいいなっていうところから、最終的にたどり着いたのが90年代の野暮ったい形のスタジャン。そういうスタジャンを使って、いま気になってるニュートラを表現したくなった、という感じですね。

コミューン H
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スタジャンの中でも、90年代のシルエットがいまの気分にハマったと。

ラムダ
ラムダ

近年のスタジャンはリサイズされて着やすくなってる中で、90年代のものは腕まわりや身幅が広くて、全体のフォルムが丸い。もともと〈ステューシー〉とか〈クロスカラーズ〉の、あの丸っこいシルエットが当時から好きだったんですよね。あと、スタジャンのリブは結構ギュッってなる印象が強いけど、この時代のものはほどよくゆるくて着やすいんですよ。

Article image 1979年、スパイク・リーが映画監督のモンティ・ロスとともに設立した映画制作会社「40エーカー・アンド・ア・ミュール・フィルムワークス(40 Acres & A Mule Filmworks)」によるスタジャン。黒・赤・緑の配色は、アフリカの連帯や解放を訴えるパンアフリカ主義のシンボルカラーが由来。
コミューン H
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今回ご紹介いただく〈40エーカーズ〉のスタジャンは、90年代ものですね。

ラムダ
ラムダ

そう、これは90年代当時のもの。スパイク・リーネタはTシャツとか含めて、見つけては買い集めてるんですよ。たしか18歳のときかな、「LAST ORGY」(編集注:藤原ヒロシさんと高木完さんによる雑誌『宝島』での連載企画)でHFさんかムラジュンさん辺りが、スパイク・リーの映画のキャップを被ってるのを見て。そこから〈40エーカーズ〉の存在をはじめて知ったんです。あの人たちは並行輸入で買ってたから、当時はもちろん手に入らずで。古い資料を見ながら「あの時のあれは何だったんだろ」って調べたりして、このスタジャンは数年前に手に入れました。

コミューン H
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どうしてスパイク・リーネタに惹かれたんですか?

ラムダ
ラムダ

彼は周りにマイケル・ジョーダンやBeastie Boysがいたりして、ストリートの中でもインテリっぽい雰囲気があったんですよね。そこにすごく憧れがあったし、映画もファッションも音楽も、あの人が発信するカルチャーはとっつきやすかった。ギャングスタ過ぎないし。あと、スタジャンの背中に“Spike Lee JOINT”っていうグラフィックがあるけど、そのジョイントっていうワードもすごく気になってて。

Article image 素材はオールメルトン。ボディはカナダの〈ルーツ〉製。
コミューン H
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“スパイク・リーの作品”という意味のいわばタグですね。映画『DO THE RIGHT THINGS』のポスターにも同じ言葉が載っています。

ラムダ
ラムダ

そういう言葉選びも洒落てるし、グラフィックがとにかくかっこいいんですよ。特に〈40エーカーズ〉のアイテムはHIPHOPを感じつつも、グラフィックがポップで可愛げがある。〈40エーカーズ〉自体はスパイク・リーの映画制作会社で、そこから出てるマーチャンダイズみたいなものだから、アパレルブランドじゃないってところもかっこいいんだろうな。

コミューン H
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そんなスタジャンでセルフスタイリングを組んでいただきましたが、どこがポイントでしょうか?

ラムダ
ラムダ

やっぱりスタジャンはパンチ力があるから、ワントーンで合わせたいっていうのがあって。次の26SSのコレクションを見ていると、アースカラーとか、ベージュ・ブラウン系のグラデーションがもっと流行りそうな気がしてるんです。だから、リネンシャツとコーデュロイパンツはベージュ系の階調にして、それをスタジャンの黒で締めたスタイリングです。

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コミューン H
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先ほどちらっと「黒で締めるのが気分」というお話もされていましたよね。

ラムダ
ラムダ

焦げ茶で締めるとカントリーになりすぎちゃうんだけど、黒だとセリーヌの財布みたいに見えるというか(笑)。モダンで品のいい印象になる気がします。

コミューン H
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中のシャツは冒頭の話で出てきた〈アルマーニ ジーンズ〉のものですね。

ラムダ
ラムダ

そう。〈アルマーニ〉のサファリルックっぽいアイテムを、アフリカの匂いのするジャケットでコーディネートしたって感じ。それと、このスタジャンはオールメルトンだから気張ってなくて、カーディガンっぽく着られる。このミックス感が自分なりのニュートラかなと思って。

コミューン H
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たしかに、いわゆるのアメカジという感じではないですね。

ラムダ
ラムダ

デニムもチノパンも合わせないっていうね。しかも、このスタジャンの色が難しくて…だって赤と緑でクリスマスじゃん。でもそこにイタリアのエッセンスを入れることで、自分なりに昇華して着られるようになりました。やっぱりひとつ違う文脈を入れたり、裏切りがないとコスプレになっちゃうから、特にスタジャンは。

アフリカをルーツに持つ人たちの熱量を着る。

コミューン H
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続いて、もう1着は〈ウェールズ・ボナー〉。90年代ではなく現行ブランドからのチョイスです。

ラムダ
ラムダ

現行ではあるんだけど、90年代的な丸いシルエットということで今回持ってきました。袖はブラウスのパフスリーブを連想させるほどゆとりがあって、さすが女性デザイナーだなっていう。ストリートだけじゃなくて、品のよさもあるスタジャンです。

Article image ラムダさんが足繁く通う高円寺の古着屋「maar」オーナーのおのっちさん。〈ウェールズ・ボナー〉のスタジャンは2019AWシーズンのもの。
コミューン H
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こちらはラムダさんのお知り合いのおのっちさんにセルフスタイリングしていただきました。このコーディネート、いかがでしたか?

ラムダ
ラムダ

ポイントはなんといっても、ファットなスタジャンに対してのスキニーですよね。こういう格好のやつ、パリの「ポンピドゥー・センター」で滑ってるスケーターとかでほんとにいるんですよ。中高生のときからずっとそのミスフィッツのスエット着てんだろ、みたいな(笑)。パンツの裾幅とか着丈とかに絶対のルールがあって、自分のスタイルが出来上がっちゃってるタイプ。おれとはまた違うヨーロッパ的な着こなしで、またスキニーを穿こうと思うぐらい影響を受けましたね。

コミューン H
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ちなみに、このスタイリングにおけるヨーロッパっぽさとは?

ラムダ
ラムダ

ネイビーのスタジャンに黒を合わせてるところですね。この色の組み合わせって、アメリカ人はあんまりやらないんだけど、ヨーロッパだとよく見るんです。それは多分、ネイビーの色合いに違いがあって。アメリカのネイビーっていうとナス紺のイメージだけど、ヨーロッパは鉄紺。黒に近い、無機質で寂しい色っていうのか。鉄紺だと黒とも自然になじむんですよ。

Article image 「ハンドっぽい刺繍や、いわゆるのレタードとは違う立体的なワッペン、リブの緩めのテンション、それと革の質感。これはどこをとっても悪い点がひとつもない1着」とラムダさん。
コミューン H
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たしかにネイビーと黒は相性が悪いイメージがあります。

ラムダ
ラムダ

もうひとつさすがだなと思ったのが、インナーの黒のレイヤード。黒いボロボロのパーカと、その下の黒いTシャツの色抜け具合が、ちゃんと綺麗なグラデーションになってる。古着の黒って、緑っぽく抜ける黒と赤っぽく抜ける黒があって。 おのっちは両方緑寄りで統一してて、ちゃんと考えられてるなと。いやー、これは相当上級者ですよ。 

コミューン H
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そんな細かい部分まで見られていたんですね。

ラムダ
ラムダ

そう思うと、おれはオールベージュ合わせだったけど、おのっちはオールブラックで、たまたま真逆。でも黒で締めるっていう意味では着地は一緒というか。おれはベージュ系を黒で締めて、多分彼は袖のブラウンを黒で締めたんだと思います。

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コミューン H
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面白い偶然ですね。それで言うと、スパイク・リーとグレタ・ウェールズ・ボナーはどちらもアフリカをルーツに持っている点でも一緒というか。

ラムダ
ラムダ

まったく意図してなかったんだけど、言われてみるとたしかに。自然とアフリカをベースに持つ人たちの熱量みたいなものを着たいっていうテンションだったのかもしれないです。向こうではバーシティジャケットって呼ばれるように、スタジャンって白人のカルチャーを感じるアイテムだけど、それを独自に解釈する魂っていうかね。

コミューン H
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最後に、いま90年代のスタジャンを探すなら、ラムダさん的おすすめはありますか?

ラムダ
ラムダ

おれはボディありきで探すことが多くて。80、90年代の〈ゴールデン ベア〉〈ルーツ〉辺りはシルエットが整理されすぎてなくておすすめですね。〈ステューシー〉とかだと高くなりすぎちゃってるけど、この辺のものはメルカリとかヤフオクを探せば、いくらでも手頃な価格で買えると思いますよ。

高橋ラムダ

スタイリスト

1977年生まれ、東京都出身。「ビームス」で販売員を務めたのち、編集業やヴィンテージウェアのバイイングを経験し、スタイリスト白山春久氏に師事。2008年に独立。雑誌や広告、タレントのスタイリングなどを手がける。

Instagram:@tkhslmd