ぼくの好きな店。Vol.3 森岡 督行「ランデブーラウンジ」

ぼくの好きな店。Vol.3 森岡 督行「ランデブーラウンジ」

Edit: Miyoko Hashimoto

FOODREGULARぼくの好きな店

だれにだってお気に入りの店がある。レストラン・食堂・喫茶店・カフェ・バー…。知り合いだから・おいしいから・居心地がいいから…。ジャンルもその理由もひとそれぞれ。ひとつ言えるとしたら、そんなお店があればそれは豊かな人生に違いない。だから、あの人にお気に入りのお店を教えてもらいたい。第3回目は、森岡書店代表・森岡 督行さんが年に数回訪れるという、帝国ホテル 東京の1Fにある「ランデブーラウンジ」とサンドイッチの話。

究極のサンドイッチとおもてなし。

初めて帝国ホテル 東京に足を踏み入れたのは、隣の宝塚劇場で働いていた学生の頃。休憩時間に日比谷公園へ向かう時、よくホテルのなかを通っていました。当時中野の3万円くらいのアパートに住んでいたぼくからするとそこは別世界。商談をしているスーツ姿のひとたちを見て、大人ってすごいなぁなんて呑気に考えていました。当然ラウンジに入るなんて概念すらなく、空間そのものを楽しんでいましたね。いま来ても、1960年代のひとからみた東京の未来って感じでわくわくします。

社会人になってからようやく、自分の稼いだお金で「ランデブーラウンジ」へ。ホテルの正面玄関から入って左にあるラウンジなんですが、そりゃあもう緊張しましたよ。席に着いて思ったことは、天井が高い。あとは、ひとと話をしたり、ひとの話を聞いたりするときの適切な距離というものがあるとしたら、それが計算されてかつ反映されているかのような間合い。店名に入っているランデブーはフランス語で「約束」という意味で、何か取り決めごとをするなど打ち合わせに最適な場所なんですが、ぼくは用もないのにひとりでただ座る時間も好き。「柱が24本あるけど、どういう意味なんだろう?」とか、コーヒーや紅茶を飲みながら過ごす、一見無意味な時間は贅沢です。

昨年はエッセイ集の出版祝いでひとりでここに来ました。そしたら、近くに座っていたお客さんが、偶然ぼくのことを知ってくださっていて。嬉しさのあまり手元に持っていたその本にサインして渡しました。ちょっとしたスター気分を味わえたとでも言いますか(笑)。緊張でガチガチだった昔の自分に教えてやりたいです。今年の話でいうと、雨の日に訪れた時もあって。ぼく以外にあまりひともおらず、いつも賑わっているラウンジがしっとりとした空気に包まれていて、これもまたいいなと思いました。

元々そこまでサンドイッチ愛はなかったのですが、村上春樹の小説によく登場するなあと思い、食べるようになりました。普通のものをどれだけのクオリティで出すか。「ランデブーラウンジ」のミックスサンドイッチはそこにこだわっているなと感じます。例えば、間に挟まってる野菜。しなしなになりがちですが、ここのレタスやトマトはつくりたてということもありフレッシュ。あと、サイドのポテトチップスとピクルスもいいですよね。どう決めたのかは謎ですが、サンドイッチにはこれ!っていう必然性を感じます。そういえば最近、パンが変わったんですよ。このもちっとした食感はぼくの好みです。

見た目がシンプルでも、ひとくち食べたら分かります。サンドイッチの究極ってこれなんだなあと。時計やコートの一流は何十万も何千万も払わないと手に入れられないけど、サンドイッチの一流なら「ランデブーラウンジ」で数千円で食べられる。決して安い値段ではないですが、ラウンジでの空間体験を含めてそれだけの価値があると思うんです。あとは、ショートケーキもオススメ。苺の上に見えないくらいの粒でシロップが一滴垂らしてあって。酸味をマイルドにするためなんですが、なんだかやさしさを感じますよね。

それでいうと、従業員の方々に対してもやさしさを感じます。どんなひとでも受け入れてくれる安心感というか。ひとびとの喜びに寄り添ってくれるから、この場所はいつも希望や夢で満ち溢れていますよね。なんだか自分がチワワになったような気分になります。チワワって誰にでも愛されるじゃないですか(笑)。そんな体験を提供してくれる帝国ホテルのホスピタリティに感動しますし、ぼく自身も仕事においてその姿勢を持っていたいなと来るたびに思います。

帝国ホテル 東京 ランデブーラウンジ

住所:東京都千代田区内幸町1-1-1

TEL:03-5726-9629

営業時間:10:00~22:30(ラストオーダー 22:00)

公式サイト:https://www.imperialhotel.co.jp/tokyo/restaurant/rendezvous

Profile

森岡 督行(森岡書店 代表)

1974年、山形県生まれ。銀座にある古書店「森岡書店」の代表でありながら、作家としても活動しており、著書に『銀座で一番小さな書店』(小学館)や『荒野の古本屋』(小学館文庫)などがある。大のショートケーキ好きとしても知られ、2023年にはエッセイ集『ショートケーキを許す』(雷鳥社)を刊行した。
Instagram:@moriokasyoten