だれにだってお気に入りの店がある。レストラン・食堂・喫茶店・カフェ・バー…。知り合いだから・おいしいから・居心地がいいから…。ジャンルもその理由もひとそれぞれ。ひとつ言えるとしたら、そんなお店があればそれは豊かな人生に違いない。だから、あの人にお気に入りのお店を教えてもらいたい。第1回目はコンランショップ・ジャパンの中原慎一郎さんがお気に入りのイタリアンレストランへ行ってきた。
「お店じょうず」なひとがいるお店。
「イゴラ(Igora)」に通うようになったのは、コロナに入ってからだと思います。それまではアメリカを行ったり来たりしていたので、都内でごはんを食べに行く機会はほとんどなかったんです。でもコロナになって海外に行けなくなったことで、逆に都内のお店をいろいろと調べるようになりました。そんな時期に「イゴラ」のオーナーの坂井くんとも知り合って仲良くなっちゃって、それから頻繁に通うようになりました。
自分はひとりで食事をするよりも、誰かと一緒にたのしみたいタイプ。もしひとりだったら家で済ませちゃいますね。コロナ以降は、食事のお誘いがそれまでとは別レベルで増えて、まあ昔だったらこのひととは行かないだろうなあと思うひとや、いままでは知り合わなかったタイプのひととも食事の場で出会うようになって、それはそれでいいなあと思うようになりました。予定さえ空いていれば断らなくなったし、自分も大人になったと思いますね。
「ザ・コンランショップ」の仕事が中心になったこともあるんですけど、そうやっていろんなひとと頻繁に食事をするようになってくると、知らないお店にいくよりも、知ってるひとがいるお店の方がいいじゃないですか。「イゴラ」はそんなときに思いつく最初のお店です。イタリアンは元々すごく好きなんですけど、坂井くんがつくる料理が好きになっちゃったんです。カジュアルだけどちょっとフォーマルにも使えて、いろんなことがちゃんとしてる。その感じがすごく好きですね。なんて言うか、「イゴラ」は男友達の家に遊びに行くみたいな気軽な感覚があるんですけど、ちゃんとしたレストランの感じも備えています。カウンターがメインだけど、大勢で行ってもたのしめるし、パスタを3種類も4種類もつくってくれるから、パスタ好きにはたまりません。やっぱイタリアンって最高だなあと感じさせてくれる場所です。ただ如何せん場所がウチから遠いので、わざわざ行く感じになっちゃうんです。もし近くにあったらもっと行っちゃんだろなあ。「ごめんパスタだけ食べていい?」とか「ワインだけ飲んでいい?」 ってやっちゃいそうですよね。近所のひとたちはそんな使い方をしてるんじゃないかなと思いますね。
坂井くんは男女問わず誰からも好かれる不思議なひとで、料理人としても優れているんだけど、何よりサービスがすごく上手。お客さんとの距離感もいいし、誰に対しても分け隔てのない接客で、絶対に嫌な思いをさせないなあと思って見ています。例えば、仲のいい友達何人かで行ってしゃべりまくるような場面でも、坂井くんは会話にスッと入ってくる。みんな坂井くんに会いに行ってご飯を食べようって感じで行ってるんじゃないかなあ。本当に心地いいですよ。
ぼくが好きなお店って、「お店じょうず」なところなんです。ぼくはレストランやごはん屋さんをオーナーごと見るようなところがあって、このひとはこういう料理を、こういう場所で、こういう内装で、こういう経営形態でやってるんだって、いろいろ考えてみてお店のよさを理解して「自分の中に置く」感覚があるんです。お店じょうずなひとって、オーナーとして、ひととして、いろいろ開かれた心を持っていて、受け入れられる感覚とか、必要なところで任せられる力があるひと。どこかで自分のやれる範囲を決めてて、あとは信頼して任せちゃう。そういう方が、結果的にいいお店になるんじゃないかなと思います。そういうのって住宅にしてもそうなんですけどね。
お店じょうずであることが、自分にとってとても大事なことだったりするから、そういう意味では坂井くんのところはまさにそうですよね。「湯気」の田口くんもそうだし、「パドラーズコーヒー」のまっちゃんなんかもそうですよね。ごはんがおいしいとか内装や何かが整えられてるってことよりも、根っからのお店じょうずがやってるお店と、そういうひとが好きって感覚ですね。
Igora
Profile
中原慎一郎(株式会社コンランショップ・ジャパン 代表取締役)
1971年生まれ、鹿児島県出身。1999年にランドスケーププロダクツを設立。インテリアショップ「Playmountain」やカフェ「Tas Yard」などを手掛ける。2022年より、「ザ・コンランショップ」代表取締役社長。