アンファッションとは何か。金子恵治 Vol.04 旅という名の反省会。

アンファッションとは何か。金子恵治 Vol.04 旅という名の反省会。 アンファッションとは何か。金子恵治 Vol.04 旅という名の反省会。

Photo: Keiji Kaneko

Text: Keiji Kaneko

Edit: Yosuke Ishii

COLUMNFASHION

アンファッションを掲げてスタートした本連載。しかしその舌の根も乾かぬうちに、世界最大級のメンズファッションの見本市「PITTI UOMO」へ行くことになった。フィレンツェの地で目の当たりにしたのは、着飾る男たちの圧倒的な熱量。そこで僕が見つけたのは、流行という言葉では片付けられない「スタイル」という名の原石だった。

誤解していた「アンファッション」。

事の発端は、数ヶ月前。「アンファッション」なんてテーマを掲げた男が、ファッションの震源地に行くことになった矛盾からはじまる。そもそも今回の渡航は、イタリアのバッグブランド〈フェリージ(FELISI)〉の仕事によるものだ。仕事である以上、行くことに迷いはなかったが、「どう振る舞うべきか?」という迷いはあった。

けれど、いざ出発が近づくと、そんな迷いは消えていた。実は、噂に聞くこの祭りを、誰よりも楽しみにしていた自分がいたのだ。

Article image

現地で圧倒的な熱量を浴びて、ぼくはまた頭の中でグルグルと考えてしまった。自分では「アンファッション」を決め込みたいけれど、やっぱりファッション自体は楽しいし、好きなのだと。

服は、ただ鑑賞するだけじゃもったいない。やはり着てナンボだ。

そして、着るためには「場」が必要だ。

いまの世の中、「気を使わない」「肩肘張らない」というスタイルが主流になりつつある。もちろん、リラックスすることは大事だ。けれど、あまりにもそれだけではつまらない。

日常には、程よい刺激やスパイスが必要だ。

着飾る場があるからこそ、輝く服もある。 そういう文化が減りつつあるいま、PITTIという「場」は、ぼくにとって久しぶりの強烈なスパイスだった。

欲しいものと、必要なもの。

今年はどうやら、海外での仕事が多くなる年になりそうだ。自分にとって、旅はいちばん刺激がある体験であり、同時に「普段の行いの集大成」だとも思っている。

今回の旅には、個人的な裏テーマを設けていた。「毎日違う服を着る」ということ。そのために用意したのは、人生初のキャリーケース2個持ち。ロストバゲッジ対策という名のリスクヘッジも完璧だ。

Article image

結果、荷物は無事に届いたのだが、その準備の過程で何度も手が止まった。「こういう服がない」「こういう靴の種類がない」「このコーディネートを組むのに、これが足りない」。 クローゼットの前で、自分の手持ちの駒の少なさに頭を抱える。

単に買い忘れたわけではない。それが必要となる「場面」を、日々の生活で経験してこなかったからだ。 もし普段から、多様な場に足を運び、あらゆる体験をしていれば、そのための服は自然と手元にあるはず。服がないということは、その経験がごっそりと抜け落ちているということだ。

TPOをわきまえること、その場を楽しむ作法を知っていること。それは大人の教養だ。服が足りないということは、その教養がまだ身についていないということに他ならない。

旅という非日常の前に立つと、日常の積み重ねが露わになる。自身の教養不足や、経験不足を残念に思うことばかりだ。

「欲しいものはない」なんて言っていたが、必要なものが足りていない。 欲しいものと必要なものは、違うのだと気づいた。

原石としての「スタイル」。

現地での「撮影」もまた、多くの気づきを与えてくれた。帰国後、お会いする方によく聞かれるのは、「今回は撮影かなにかのお仕事でPITTIに行かれたのですか?」ということ。

全くそのような仕事ではない。合間に好き勝手に撮ってInstagramにアップしまくっていただけだ。 ぼくはカメラマンではないし、誰が有名人だとか著名な方だとかも全然分からない。けれど、とにかくシャッターを切る手が止まらなかった。

なぜ、そこまでして撮りたかったのか。その答えは、現地に行ってみて、ファインダーを覗き続けて、ようやくわかった気がする。

よくPITTIの装いを指して「あれはファッションだ」「コスプレだ」と揶揄する声も聞く。 確かに、派手で演劇的かもしれない。行く前はぼくもそう思っていた節がある。けれど、ぼくのレンズに映っていたのは、そんな表面的なものではなかった。

そこに写っていたのは、紛れもない「スタイル」だった。

彼らは、流行の服を着ているのではない。自分という個性を、服を使って表現している。改めて ぼくの撮った人たちを総括すると、そこには世の中のファッションを生み出す「原石」のようなスタイルがあった。

ファッションだとかコスプレだとか、そんな言葉では括れない。ぼくが撮りたかったのは、その人の生き様が滲み出た「スタイル」そのものだったのだ。

完成されたファッションショーよりも、ぼくは人のスタイルに興味があるようだ。今回いちばんの発見は、これに尽きる。

6月の完成形に向けて。

3月、4月、5月、そして6月。 今年は毎月のように海外出張が控えている。

とにかく自分は沢山の人を撮りたい。撮り漏れしたくない。そのためには、機材の準備だけでなく、身体の準備も必要だと痛感した。望遠レンズを構え続ける腕力が足りないなんて、笑い話にもならない。

ファッションの現場に行くのに、筋トレから始めなきゃいけない。でも、それもまた、スタイルある男たちと対峙するための必要な「準備」なのだ。

Article image

次の旅までに、足りないピースを埋めていきたい。服も、経験(教養)も、そして筋肉も。

6月には、完璧な準備ができるようになっているといいな。 旅という名のテストで、満点を取るために。

Article image

Profile

金子恵治 / ファッションディレクター

1973年生まれ、東京都出身。〈エディフィス(EDIFICE)〉でバイヤーを務めた後に独立し、〈レショップ(L’ECHOPPE)〉の立ち上げに携わる。2022年、東京・北青山に「ブティック(BOUTIQUE)」をオープン。ディレクションから買い付け、販売まですべてを手がけ、デザイナーとのコラボレーション商品やヴィンテージアイテム、オリジナル商品を取り扱う。2024年には自身初のファッションブランド「ファウンダ(FOUNDOUR)」をリリース。さまざまなブランドやレーベルの監修など、多岐にわたる活動を行うファッションディレクター。「ブティックカンパニー」代表。Instagram:@keijikaneko