HANG OUT VOL.5 

Authentic Bonsai

Chapter 06

2025.1.24

Photo:Hiroki Oe

Text:Shinri Kobayashi

Edit:Shinri Kobayashi

HANG OUT VOL.5

HANG OUT VOL.5 Authentic Bonsai

グリーンをはじめよう。なんならひねって盆栽からでも。

インテリアを充実させたいなら、まずはメンタルヘルスにもよさそうなグリーンを育ててみるのはどうだろう? さらにちょっとひねって「盆栽」なんていいかもしれない。というのも、海外からの熱視線、ニュージェネレーションの出現等、流行る前に手を出すならばいまがベストかと。今回は、平均年齢20代という若き盆栽作家集団「桃松園」にお邪魔して、盆栽のイロハを教えてもらいました。

Chapter 06 | Authentic Bonsai

笠井武広

「桃松園」代表。ウェイトリフティングで五輪大会を目指すものの、叶わず趣味だった盆栽の道へ。屋号は、実家が桃農園を営むことから。ただし、桃を育てた経験は皆無。

盆栽のイロハ。

ーこれ、力強くてめちゃくちゃかっこいいですね。

いいですよね。杜松という木の種類ですが、枯れて白くなった幹を「舎利」、生きている部分を「水吸い」と呼びます。生と死を象徴する、そのコントラストが強烈ですごく人気があります。

ー盆栽というのは何を表現しているものですか?

諸説はありますが、「盆景」という中国の文化が日本に輸入され、発展してきたとされています。盆栽は、鉢の中で一つの自然美を表現するもの。作り手にとってはセオリーがありますが、愛好家としてならば自由に楽しんでほしいですね。盆栽を育ててみるのもいいし、育てずにまずは鑑賞するだけでも、楽しみ方はひとそれぞれでOKです。

ー笠井さんの場合、盆栽にハマったきっかけはなんですか?

「DOMICILE TOKYO」という原宿にあるアパレルショップで、浮かぶ盆栽をみてかっこいいなと。それがきっかけです。

ーそこから事業として、「桃松園」を立ち上げるまでは?

元々、ウェイトリフティングの選手で、リオ、東京、パリと五輪を目指して、2023年まで活動していたんです。結果、出場はできなくて、さあ、これからどうしようと。アスリートではなくなるとはいえ、普通に働くよりも同じ熱量を注げる仕事をしたいと思っていて、それまで趣味だった盆栽を仕事にできたらと。でも、生業にできるんじゃないかなとは思っていました。

ーそれはどうしてですか?

当時、住んでいた東京のマンションで育てていたんですが、Instagramにアップしていたら欲しい、買いたいとDMをもらって、プロとしてやっていたわけではないのに、買値より高く売れたことがあったんです。作ること自体が楽しいのに、さらにうまく作るとよりひとに認められているんだなというのがおもしろいと思いましたね。あとは、アスリートの世界と同じものを感じたんです。

ーというのは?

どの世界でもそうだと思いますが、目標を立てて何が何でもやり遂げたら成功できますよね。自分は、アスリートとして何度も日本一になりましたが、目標を立ててやり抜くというのは得意なんです。

ー改めて、盆栽のおもしろさをどこに感じているのか、教えてください。 

この鉢の中で自然を造形することのおもしろい、でしょうか。ひとが手を加えるので当然人工的なものですけど、自然の力をベースにしつつ人間の手を加えることによって、元々ある自然よりも美しいものを思い通りに作れるということが本当に楽しくて。さらにそこから他人にも認められるほどの出来になったら、さらに気持ちいいというわけです。

ー盆栽を育てる上で難しいと感じるのは、どこですか?

盆栽の美しい姿は一瞬です。水をあげないと枯れていくし、ハサミを入れなければ伸びたい放題に伸びていく。美しく、いい姿というのは一瞬なんです。いまがよくても、1年後には新しく芽が出たりと、その時々によって変わるのが、難しさでもあり、おもしろさでもあると思いますね。

盆栽の人気は世界レベル。

ー盆栽の世界では、樹齢何百年というものもありますよね。

だから、自分がいなくなったあとも残っていく可能性があるんですよね。誰かの手で育てられたものが一時的に自分の元に来ていて、誰かの元に渡っていくというのもよくあることです。

ー観葉植物との違いは?

基本的には、観葉植物は室内で育てますよね。盆栽は、光が必要なので基本的には外で育てます。もちろん室内でもいいですが、弱ってしまうので、室内に置き続けられるのは一週間くらいまでと考えてもらえたらと。

教科書通りの不等辺三角形を形づくる。

教科書通りの不等辺三角形を形づくる。

ー形を決めるためのセオリーはあるんですか?

 不等辺三角形にすると美しいといわれています。あとは、枝は下げて、芽は上にクッとあげると見栄えがよくなります。

 ー変形させるためには、こういった針金の線を使うんですよね?

 そうですね、テクニックの一つです。アルミでもいいんですが、一度曲げるとその形で固まるので、プロは銅線を使います。でも大事なのは、どんな形にするかというイメージを明確に持つこと。針金を巻くこと自体は、誰でもできますが、そこからどうやって三角形を作ろうかというイメージが重要。それが思い浮かばなければ、いい形は作れません。

ー笠井さんからみて、この人たちが作る盆栽はすごいという方はいますか?

小林國雄さんと木村政彦さんという名匠がいらっしゃいますが、この二人はもう神ですね。ネットで調べてみてください。手がけた盆栽は、億を超える価格がつけられたこともあるくらいです。

 ー海外における盆栽の人気ぶりもすごいですよね。

そうですね。欧米はもちろん、タイやベトナムなどアジアでも人気が高まっているのを感じます。アジアのバイヤーが「桃松園」に来てお買い上げいただくことも珍しくありません。「桃松園」をはじめて一年くらいでこうなので、個人的には夢があるなと。一方で、国外への輸出は増えているものの、盆栽をつくるひとは減っていっていて、それは盆栽業界の根本的な課題だと思います。だから、目先の売上だけでなく、業界自体の底上げもしたいので、盆栽素材の生産や盆栽のリースやレンタルをしています。

盆栽ビギナーズへの手ほどき。

左が真柏で数万円、右が黒松で数千円の価格(価格は、桃松園の場合)。

左が真柏で数万円、右が黒松で数千円の価格(価格は、桃松園の場合)。

ーまず盆栽をはじめてみるならば、どのあたりを購入するのがいいですか?

枯れにくい強い樹種がオススメです。例えば、五葉松、黒松などの松は、元々高山植物で砂利など水が少ないところでも自生するくらいで、寒いところでも平気。あとは人気の真柏もオススメです。まずは、数千円〜数万円くらいからはじめるとよいかと。数万円のものならば、お気に入りの形も見つかるはずです。あとは、カエデやイチョウなどの雑木の盆栽も好きなひとにはオススメです。縁起物というものもあって、たとえば梅は一年のうち一番最初に咲く花だと言われていて、幸先がいい花として縁起がよいとされています。そのほかにも桜も花が咲いてきれいですが、花が咲いていないときは木だけになってしまいます……。

(左)桜:春になればきれいな花を咲かせる。
<br>(右)五葉松:このフォルムはまさにイメージ通りの盆栽を体現している。

(左)桜:春になればきれいな花を咲かせる。
(右)五葉松:このフォルムはまさにイメージ通りの盆栽を体現している。

ー鉢選びに関しては?

高め、低め、四角、丸型だといろいろとありますが、好きな鉢を使うのがいいと思います。ただしセオリーとしては、植物が鉢からはみ出すよりも収まっているのが美しいとされています。とはいえ、個人的に好きな鉢を使うのがいいと思います。ちなみに、そういう観点からも葉の短い五葉松は、盆栽向きです。

ー道具は何が必要ですか?

 芽や葉をカットするはさみと、針金を切るニッパーがあれば。100均でも揃います。

 ー他に何かアドバイスはありますか?

 鉢が薄くて小さい……つまり土の量が少ないと乾きやすくて水を頻繁にあげないといけないので、初心者には向いていません。

 ー針金を巻いたりといろいろとテクニックもありますが、敷居は高くないのでしょうか?

 剪定や針金を巻くこと、植え替えなどのテクニックは後で必要となれば学べばいいと思います。教室で学ぶこともできますが、YouTubeなどの解説動画も充実しているし、その都度調べれば十分です。土に間してはどこでも売ってますが、赤玉土がいいでしょう。まずはお気に入りの一鉢を買って、水やりして育てるというところから気軽にはじめてみてください。

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