HANG OUT VOL.5

One Talk One Kill

Chapter 01

2024.12.30

Photo:Kai Naito

Edit:Shinri Kobayashi

HANG OUT VOL.5

HANG OUT VOL.5One Talk One Kill

話し下手は落語家の夢をみる。落語をはじめよう。

これまでの自分から脱皮するのに、年始はふさわしい。人前で上がらずに話せるようになりたいというひとは、まずは落語でもはじめてみては? 理想は、話芸のみで観客を魅了する落語家だけど、スタートは落語を楽しむところからはじめよう。だって、好きこそものの上手なれ、なのだから。

Chapter 01 | One Talk One Kill

第一章
落語家に聞いてみよう。

主に落語で描かれるのは、江戸時代。そりゃ海外の人にとっては、国も違えば、時代も違う。このあまりにも“遠すぎる”落語に魅せられた異国の方がいます。それがカナダ出身の桂福龍さん。聴くだけでは飽き足らず、落語家としても活動する福龍さんに聞く、落語の魅力。

桂福龍

カナダ出身。2001年に来日し、英語を教えながら興味のあった、日本語や文化を学ぶ。2011年に英語落語と出会い、日本の伝統と英語の融合に魅了され“落語中毒”に。日本語の落語にも挑戦したいと考え、2016年10月に桂福團治一門に入門し、桂福團治の11番目の弟子となり、桂福龍の名前をもらう。日本語の落語の他、海外での英語落語の経験も豊富で、最近は手話落語も。

YouTubeが入り口に。

ー落語には、真打ち・二ツ目・前座など、師匠が認めて初めて昇進できる身分があります。福龍さんは、今はどの段階ですか?

福龍:日本語の落語に関しては、入門して9年で、現在二つ目です。真打ちまではあと数年はかかるでしょうね。もう一つの英語落語に関しては、すでに真打ちです。

 ーそもそも落語家になる前は何をしていたんですか?

 福龍:日本に渡ってしばらくは英語の教師をしていました。ちなみにその前の故郷のカナダでは、マジシャンをやってました。

ーもともと落語を、ご存知だったんですか?

福龍:いや、当時は大喜利と落語の違いもわからないくらいでしたね。ある時、友達がYouTubeで、桂枝雀の英語落語を見せてくれました。英語落語は、字幕ではなく、本人が英語で話す落語です。桂枝雀はそのパイオニアなんです。そこから興味が一気に湧いて、まずは英語落語のアマチュアの会に入会することに。最初は趣味でやろうと思っていたのですが、やればやるほどハマってしまい、やっぱりプロになりたいと思うようになって。数年プロ落語家になるためいろいろトライした結果、幸運にも偶然チャンスを得たので、なってしまおうと(笑)。

ー英語落語が初体験なんですね。落語のどの部分に惹かれたんでしょうか?

福龍:落語の笑いの部分はもちろん好きです。でも落語は笑いだけじゃありません。海外で落語のことを説明するときに、スタンダップコメディの逆で、シットダウンコメディと訳します。だからみんなのイメージでは、落語はコメディなんですが、実際は違って、落語の真髄は物語にあると思います。落語家は、シンプルな持ち物と話芸と身振りで、みんなの頭の中に物語を想像させる。だから、私は落語家を尊敬しているんです。

 ー登場人物を全て一人で演じますからね。

 福龍:男性、女性、子供、老人、ときには犬も(笑)。物語としては、笑いもあれば、泣きを誘うものもある。それもすごいなと。古典落語なんて、およそ400年前のネタですが、今聴いても面白いですから。漫才やスタンダップコメディも好きでよく観ますが、やはり時代のトレンドというものがあって、おそらく時代が変われば、漫才等は面白く感じなくなる可能性があります。でも、落語は今でも面白い。つまり時代を超えた面白さがあるんですよね。

落語家という職業について。

ーこの上の写真は、有名な『時そば』のそばを食べるシーンですか?

 福龍:いや、これはそばじゃなくて、うどんなんです。江戸落語ではそば、上方落語ではうどんに変わるんです。そのほかにも、江戸落語では舞台上は座布団だけですが、上方落語では膝隠しを使います。また、上方落語の方がオーバー気味に演じる傾向があったりと、江戸落語と上方落語には、いろいろな違いがあるんです。

 ーそんな細かなちがいがあるとは。落語は日本を描いていますが、海外でも通じるんですか?

 福龍:国や地域によって、笑いのツボが違うので、新しいオリジナルのオチを作らないといけません。そこは大変です。でも、国を超えて楽しめるのも、落語が描いているのが、国も時代も超えた、普遍的な物語だからだと思います。

 ー落語の舞台は日本で、しかも江戸時代というはるか昔のことですよね。海外の方に説明するのは、難しくないですか?

 福龍:そうですね。だから、足りないところや難しい部分に関しては、例えばナレーションで説明します。そうするとスムーズです。面白いと思うのは、例えば海外で古典落語をした場合、それぞれのイメージの違いがあるんです。例えば、侍の話をすると、海外の人は青い目をした侍をイメージする。落語は、映画と違い、それぞれの観客の頭の中でしかイメージされないので、それぞれの違いが面白いんです。

 ー海外で落語を披露することの手応えはどうですか?

 福龍:海外では、日本人は数学に強い、テクノロジーが発達しているという印象は強いですが、お笑い好きという印象は少ない。でも、400年前から笑いや人情を物語として楽しんでいた文化があるということを知ってもらうのにいいきっかけになります。

ー落語を演じるのは、楽しいですか?

 福龍:はい。舞台に上がるのが、一番楽しい。ネタを覚えたり、所作やマナーを覚えることは大変ですが、とにかく舞台に上がるのが楽しくて大変なことは吹っ飛びます。で、お客さんの笑い顔を見るのが一番。

ー今後やりたいことはありますか?

 福龍:入門から9年目で、2025年には10年目になります。いつか弟子を取りたいですね。今は二つ目だけど、師匠から弟子を取る許可をもらっているので。

 ー海外での英語落語の普及に関して、目標はありますか?

 福龍:本当は2020年に、26カ国に落語をしに行く予定だったんですが、コロナで全部キャンセルになってしまって。そのリベンジができれば。

ー落語家になって良かったことは?

 福龍:落語を通じて、日本のいろいろな場所に行けることですね。この仕事をしていなければいけなかったであろう小さな島とか、街だけでなく、田舎にも行きます。実際に足を運ぶと、最高な場所ばかりです。

 ーただ単純に面白いからでもいいのですが、落語を観ることでプラスになることは何かありますか?

 福龍:若い人は、YouTubeとかゲームとかを楽しんでいる人も多いと思うんですが、テクノロジーは一切使わない落語がこんなにも楽しいということを知ってほしいですね。子供の教育で、楽しみながら学ぶという方法がありますが、落語も同じで、楽しみながら物語に触れることができますから。

第二章
早稲田の落語研究会に聞いてみよう。

早稲田大学落語研究会。「よき鑑賞者たれ!」という伝統の教えを厳守し、落語鑑賞や実演に励む学生で構成された、日本最古の落語研究会です。OBとしては、「渋谷らくご」の仕掛け人・サンキュータツオさんなどがその名を連ねます。落語を熱心に観る学生に聞く、落語を学ぶ魅力とコツ、そしていま観てほしい落語家3選。

今回話を伺った、早稲田大学落語研究会所属の吉村さん。実演もこなす。

今回話を伺った、早稲田大学落語研究会所属の吉村さん。実演もこなす。

やっぱり生でしょ。

ー東京で落語をよく観る会場は、どこですか?

 落研:東京では、寄席がほぼ毎日行われている4大演芸場、上野の「鈴本演芸場」「新宿の末廣亭」「浅草演芸ホール」「池袋演芸場」に加えて、「渋谷らくご」の合計5箇所が多いです。

 ー動画よりも、やはり生の方がいいですか?

 落研:よく聞く話ではありますが、やっぱり生が迫力が段違いですね。指先の動きや細かい目線、所作は寄席などの距離感の方が観やすいです。動画だと平面なので、どうしても注意力が散漫になってしまいます。客席の雰囲気をどう作るかという、落語家の技術も勉強になります。

 ー早稲田の落研は、「おちけん」ではなく「らっけん」と自称するそうですね。

 落研:はい。というのも、もともとこの早稲田の落研は、実演よりも鑑賞に重きを置いています。かつてあった実演専門サークル(通称「おちけん」)との差別化を図るために、「らっけん」と名乗っていました。いまは鑑賞希望者も実演希望者もどちらも入会してきますが、以前の名残でそのままま「らっけん」なんです。

早稲田の落研が選ぶ、いま観てほしい落語家 その1。

三遊亭遊雀(さんゆうてい ゆうじゃく)/落語芸術協会所属

一見好好爺に見えるがその笑顔から繰り出される枕は、ある時はブラックで、ある時はピンク。まずはその落差に引き込まれる。誰もが認める実力派であり、寄席で見ない日はないほどの高座数を誇りながら、自主公演や独演会はいつも大入り。2024年は、浅草演芸ホール・新宿末広亭・池袋演芸場でトリを務めた(2回務めた末広亭夜席のうち1回は神田伯山との交代主任興行)。

滑稽話は愛嬌たっぷりに、人情噺は暖かく演じる。登場人物一人ひとりが温度と輪郭を持つ、一度見たら忘れられない魅力たっぷりの高座は必見。枕と高座のギャップ、あるいは滑稽噺と人情噺のギャップには、芸人としての色気が感じられる。YouTubeにスマホの縦画面で見られる「スマホたて落語」を多数アップしている。59歳でありながら、25時に「すき家」でカレーを食べ、バーガーキングのカスタム研究にも余念がない。

衝撃を受けた演目は、『初天神』。(早稲田大学落語研究会談)

まずは数がものをいう。

ーでは、まずは鑑賞について。どういうことを大事にしていますか?

 落研:落研内でただ一つ、昔から言われているのが「よき鑑賞者たれ!」ということ。とにかく数を観に行けということをずっといわれています。観るべき名人リストを先輩から頂いたり、さらにいま寄席に出られているような落語家さんも積極的に観に行きます。すると、知識は自ずと増えるし、自分のなかで“いい落語”の基準ができてきます。そうして、ようやく落語を実演する準備が整ったねと。

 ー落語を鑑賞して、どんなことを学生同士で話すんですか?

 落研:最初は、あの噺がすごくよかったという感想が入り口です。さらに、どうしてよかったんだろうというと考えていった先に、まず台本の切り取り方や引き伸ばし方に注目します。寄席はおよそ15分の尺なので、噺のどこを切るか、あるいはどこを引き伸ばすかというところに個性がでます。また、後ろに何かを足して伏線回収しているね、とか。そういった台本の分析をして、みんなで話します。次に、所作や表情、声のよくようなど、いわゆる技術に目がいくことが多いです。

 ー落語に触れて、よかったなと思うことはなんでしょうか?

 落研:落研内でも聞いて回ったんですが、歌舞伎、浄瑠璃などの古典芸能に触れる機会ができたということです。『忠臣蔵』というのは、ちゃんと知るとすごくいい話だなとか、過去の名作にちゃんと触れることができるのは、他のサークル等ではなかなか体験できないメリットだと捉えています。

 

早稲田の落研が選ぶ、いま観てほしい落語家 その2。

古今亭文菊(ここんてい ぶんぎく)/落語協会所属

 品のある見た目から繰り出される、低く艶のある調子の枕に身を乗り出して聴いていると、一気に目も覚めるような古典落語の世界に引き込まれてしまう。口調・表情・所作が三位一体となった、緻密に練り上げられた落語が特徴。

噺の中に出てくる小唄や義太夫節、芝居台詞にも一切の隙がなく、いわゆる若手真打といわれる部類ながらも、落語の完成度は他の追随を許さない。落語本来の味を決して壊さず、クラシックな落語とはこれほど面白いのか!
といつ観てもハッとさせられる。笑わせるも泣かせるも変幻自在、次は何を言うのかすっかり夢中になってしまう。魅力的で危険な噺家。さらに、背が高くておしゃれというのも心憎い。

YouTubeの「タケノワ座」のチャンネルで、多数の動画が見られる。見てほしい演目は『あくび指南』『夢の酒』。(早稲田大学落語研究会談)

人前で話す上でのメリットが多数。

ーでは、実演について。落語を実演するのは大きなメリットがありますか?

 落研:そうですね。実演して感じるのは、落語のストーリー展開やセリフの並びが、何かをひとに伝えるための雛形として非常に優秀だということ。落語を学ぶことで、話の組み立てや構成力などの説明する力が上がったという学生は多いですね。

 ー人前で話す度胸もつきそうですね。

 落研:例えば、人前で落語を披露するときに、大事なのはお客さんの反応をしっかりとみるということ。お客さんが飽きてそうだから、ひきのある話をしようとか、いまの単語はわかってなさそうだから、ちょっと注釈を入れようか、とか。だから、相手の反応を見ながら、自分のアプローチを変える力っていうのはすごくついたと思います。

 ー学生のうちに、そういった力をつけるのは社会でも役立ちそうです。

 落研:複数人が落語を披露する寄席をやるときは、前にでたひとは、どういうネタをかけたのかとか、前のひとが枕で触れたネタを次のひとが受けて、枕で関連づけて話したりとか。そういった他のひととの関わりの中で、いま自分に何が求められてるのか、自分がどの立ち位置にいるのかということを決定する臨機応変さは、実生活でも役にたっているんじゃないかと思います。

早稲田の落研が選ぶ、いま観てほしい落語家 その3。

立川吉笑(たてかわ きっしょう)/落語立川流所属

 2025年6月1日に真打昇進を控える、新進気鋭の二ツ目。改作で知られる立川談笑の一番弟子で、高座では独自性の高い新作落語を口演する。元は放送作家・芸人として活動していたが、立川志の輔のCDをきっかけに落語家を志したという経歴を持つ。26歳で立川流の門を叩き、1年5ヶ月という異例のスピードで二ツ目に昇進。

斬新な設定とそこから立ち現れる、息もつかせぬドミノ倒しのようなストーリー展開、元芸人ならではのパワフルな演じ分けなどからは、師である談笑、そして家元である立川談志の落語が、伝統芸能である以前に“生きた大衆芸能である”という思想が色濃く見える。

その高い分析力、洞察眼から、二ツ目昇進直後にして立川談志の『現代落語論』の流れを引き継いだ『現在落語論』という本を出版する。2022年NHK新人落語大賞優勝。

noteやYouTubeチャンネルでの発信も精力的に行う。語る上で外せないのは、演目『ぷるぷる』。(早稲田大学落語研究会談)

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