アンファッションとは何か。金子恵治 Vol.01 見たことのないレザージャケットを求めて。
自分が先日買った服は何を基準にしていたか。
先週末、早く家を出て大阪へ向かった。11時のアポに合わせて。その数日前、友人たちには、「さすがにもう欲しいものなくなりました」宣言をしたばかりだった。誰ひとりとして信じてはくれなかったが。
アポイント先は古着屋さん。事前にインスタで気になるものの目星はつけていた。レザージャケットと胸にスタッズが打ち込まれたデニムジャケット。まだ残っていますようにと、祈りながら新幹線に飛び乗った。気持ちが前のめりすぎて、携帯充電器を車内に置き忘れてきた。
しかしこの2点。何を基準に選んだのか。トレンド?TPO?それとも?
自分のファッションへの目覚めは、これまでさまざまなインタビューでも答えているが、本格的には、80年代の渋カジ、アメカジブームの頃だと思う。完全にファッションそのものが好きだった。ファッション誌はすべて購入し、穴が空くほど読み漁り、寝室に山積みだった。
その当時のインプットが、いまの仕事に活かされているのは間違いない。その時にインプットし過ぎたお陰で、早いうちに何かに気づき、20代前半にはトレンドと自己流のミックスがはじまった。とにかく情報に飢えていて、洋服屋に通い雑誌を読み漁った。
24歳で「エディフィス(EDIFICE)」というセレクトショップのスタッフになる。自分にとっては夢のような場所で、最新のこだわりアイテムに囲まれる日々を過ごした。とにかく沢山の服を買った。そこで何かが開花してしまい、自分で言うのもなんだけど「ミスター・アンファッション」が誕生した。自分の事です。
25歳でバイヤーになり、海外へ買い付けに行くようになる。そこで惹かれる人達の大半は、ファッショントレンドを追うような人達ではなく、服好きでもない人達だった。そういえばストリートスナップを集めた雑誌が好きだった。うんちくを調べるのも好きだったけど、スタイリングやコーディネートは、ストリートスナップを見て影響されていたな。
でも実際は、スナップにも登場しないような、アンファッションな人達に惹かれて憧れた。そこは見よう見まねでは辿り着けない世界だった。だからこそ燃えた。
アンファッションとは何か。
自分なりの答えは、こうだ。
自分自身、トレンドで武装し、無敵状態な時代もあった。誰にどう見られても怖くない。だってみんなも着てて流行っているものを着ているから。けれどそれが似合っていたのか、自分らしさがあったのか、自分のカルチャーが体現できていたのかというと、まったくそれはなかったと思う。しかしながら、それらを隠せるというのがトレンドで武装する強みでもあり、自分に自信がなかったから、それを纏う理由が明確にあった。
いま、自分に自信があるのかというと、服を人一倍見て着て買ったこと。世界中のファッションやアンファッションを見てきた。服の仕入れも沢山した。服を通じた経験値だけは自信があるといえるかもしれない。
だから自己流の着こなしが生まれたのだと思う。なぜこの服とこの靴を合わせるのか、なぜこのバッグを選ぶのか。そこには明確に理由があるし示せるから。すべては自分の歴史。人からの理解を求めることもない。一人落語のような感覚がある。
クローゼットや倉庫は服でパンパンだ。それでも服を買い続ける理由はできるだけ聞かないで欲しい。アンファッションな世界に飛び込むと、買う理由が無限に見つかってしまうからタチが悪くて、「三度の飯より発見が好き」と言い出してしまうようになった。
振り返れば、買った服が次の出会いを呼び、その出会いがまた新しい場所へ連れて行ってくれた。あのジャケットを買ったから、あの店主と繋がった。あの古着屋で見つけたシャツが、次の旅の目的地を教えてくれた。そして、自分で服をつくるきっかけも、買い物から生まれた。服を買うという行為が、人生の進む道のきっかけをつくってくれている。買い物は人生の道標だと、いまなら言える。
アンファッションは止まらない。
ぼくからトレンド情報や、トレンディなものが生まれない理由が、お分かりいただけたのではないか。
最初の話に戻ろう。
〈リー(Lee)〉の101ジャケットが、やたら縦に伸びたようなレザージャケット。質感も良さそうで、惹かれるに決まっている。
四角のスタッズが胸元にキレイに打ち込まれたデニムジャケット。音楽好きの人が着ていたもののようにも見えるけど、恐らくその手の人はもっと雑に色んな要素を足してくるはずだ。服好きの美学が詰まっているように見えた。
どちらも自分が見てきたことがないもの。どうやってそれが生まれたのか、とても興味を引く。
こんな服をつくった人や着ていた人はカッコいいに決まっている。勝手にその人たちを想像して憧れ、自分なりに着こなしたいというチャレンジ精神が生まれる。
欲しいに決まっている。
何を基準に選んだのか?
トレンドでもTPOでもない。
自分が見たことがないから、欲しい。
それがぼくのアンファッション。
出張で訪れたニューヨークの街中で、気になった人たちスナップした。ファッションとはおおよそかけ離れた、なんてことのない格好の人たちだが、そのリアルな姿になぜか惹かれてシャッターを切った。アンファッションの真髄が、ここにある気がして。
1973年生まれ、東京都出身。〈エディフィス(EDIFICE)〉でバイヤーを務めた後に独立し、〈レショップ(L’ECHOPPE)〉の立ち上げに携わる。2022年、東京・北青山に「ブティック(BOUTIQUE)」をオープン。ディレクションから買い付け、販売まですべてを手がけ、デザイナーとのコラボレーション商品やヴィンテージアイテム、オリジナル商品を取り扱う。2024年には自身初のファッションブランド「ファウンダ(FOUNDOUR)」をリリース。さまざまなブランドやレーベルの監修など、多岐にわたる活動を行うファッションディレクター。「ブティックカンパニー」代表。
Instagram:@keijikaneko