長谷川昭雄の対談連載
まじめに働いてんじゃねーよ!!(仮) Vol.03 相馬夕輝 前編

長谷川昭雄の対談連載 まじめに働いてんじゃねーよ!!(仮) Vol.03 相馬夕輝 前編 長谷川昭雄の対談連載 まじめに働いてんじゃねーよ!!(仮) Vol.03 相馬夕輝 前編

Edit: Ryo Komuta

REGULAR

ファッションディレクター、スタイリストの長谷川昭雄さんが、さまざまなジャンルの識者たちと仕事について真面目に対話していく連載企画。お久しぶりの更新となりましたが、今回のお相手は「D&DEPARTMENT PROJECT」の飲食部門のディレクターであり、昨秋にオンラインでの会員制スーパーマーケット「Table to Farm」をプレオープンした相馬夕輝さん。食にまつわるいろいろなお話を、前後編でお届けいたします。

PROFILE

長谷川昭雄

ファッションディレクター、スタイリスト。英国の雑誌『MONOCLE』の創刊より制作に参画、ファッションページの基礎を構築。2014年には同誌のファッションディレクターに就任。2012年から2018年秋まで雑誌『POPEYE』のファッションディレクターを務めた。2019年よりフイナムと共同でファッションウェブマガジン「AH.H」を、2023年より〈CAHLUMN〉、「andreM hoffwann」をスタート。

相馬夕輝

滋賀県出身。「D&DEPARTMENT PROJECT」の飲食部門「つづくをたべる部」ディレクターとして、日本各地を取材し、その土地の食材や食文化を活かしたメニュー開発や、イベント企画なども手がける。2024年、初の著書となる食分野での活動をまとめた『つづくをたべる食堂』を出版。2024年10月29日にオンラインでの会員制スーパーマーケット「Table to Farm」をプレオープン。

今回の対談の舞台は、長谷川さんがディレクションするブランド〈CAHLUMN(カウラム)〉の拠点である、御茶の水の「CAHLUMN STORE」。

洋服はもちろん、食も提供するこの場所で、農業、漁業、生産者などなど、食にまつわるあらゆるトピックについて語り尽くしていただきました。

フイナム
フイナム

こちらの「CAHLUMN STORE」では、「Table to Farm」で取り扱っている食材をいくつか使われているわけなのですが、まず「Table to Farm」の説明をあらためてお願いしてもいいでしょうか?

長谷川
長谷川

オンライン上のセレクトショップ、みたいなことなんですか?

相馬
相馬

そうですね。セレクトショップというよりは、スーパーマーケットといった方がいいかもしれません。

フイナム
フイナム

リリースによると、“現在わずか0.1%しか流通しない「素の味」を体感できるスーパーマーケット”とのこと。「素の味」とは、旅をするなかで出会った自然と人が織りなし生まれる“とびっきりのおいしさ”をそう呼んでいる、とあります。ゆくゆくは実際のお店を作ることも視野に入れていると伺いました。

Article image Photo_Ayumi Mineoka
相馬
相馬

はい。オンラインで始めたのは第一フェーズという感じでしょうか。こうした取り組みって今までもないことはなかったと思うんです。つまり会員の方々に、安全なものをきちんと届けようという試みのことです。

長谷川
長谷川

うんうん。

相馬
相馬

「Table to Farm」も会員制なのですが、経済合理性に傾きすぎないように、しっかりと設計しないといけないと思っています。例えば会員数の数など。

長谷川
長谷川

今はまだクローズドな状態なんでしたっけ?

相馬
相馬

今のところはプレオープン中ということもあり、紹介制という形をとっていて、本ローンチは7月25日(金)になります。会員制にしていることには2つの理由があるんですけど、あまりに開きすぎて当初考えていたものと別物になってしまうのは違うかな、というのがひとつ。

もうひとつはフードシステムとして、食べる人たちの食卓での選択と具体的な行動で、生活者がつくることに関わるアクションを取れる場を「Table to Farm」に作りました。そうしたことをやっていくうえで、生産者の方々が一番困るのは生産の現場に観光気分で来られることなんだそうです。やっぱりある程度の信頼関係があった方がいいのでは、ということから会員制というやり方を選びました。

長谷川
長谷川

今ってお米がすごく問題になってるじゃないですか。そんななかで、ちゃんと美味しいものを食べたいっていう人と、とにかく安いものがいいっていう人に分かれてきますよね。

フイナム
フイナム

ちょっと前に、国産米を100%使ってる「すき家」と、国産米を中心に外国産をブレンドしたお米を使っている(※一部の店舗では国産米のみを使用)「吉野家」の話もありましたよね。

相馬
相馬

ありましたね。

Article image Photo_Daisuke Takashige
長谷川
長谷川

僕は洋服の世界の人間なので、随分前から日本製の服がなくなりつつある状況には気づいていて。でもなんか嫌だなって、ずっと思っていたんです。日本製がいい理由っていうのは、自国の産業を支えるということであり、働き先をちゃんと作ってあげるってことでもあるわけで。僕はずっと〈New Balance〉が好きなんですけど、その理由に最近気づいたんです。というのも、アメリカ製の靴をいまだにしっかりと作ってるからなんですよね。アメリカ製だからいいわけではなくて、アメリカのブランドがアメリカで作っていて、自国の産業をしっかりと守っていこうという姿勢が大事だと思うんです。

相馬
相馬

わかる気がします。

長谷川
長谷川

学校の給食をオーガニックにしていくっていう話もありますけど、ぜひそうなってほしいなって思います。

フイナム
フイナム

子供には安心なものを食べてほしいですよね。

長谷川
長谷川

洋服の世界でも農業の世界でも、変なものを使って、変なものを作るカルチャーが生まれてしまっていると思うんです。ちゃんとしたものを食べるってことを、みんなもうちょっと考えた方がいいんじゃないのかなって。そういう意味で「Table to Farm」がやってることは、すごくいいなと思ってるんです。

相馬
相馬

ありがとうございます。

Article image Photo_Daisuke Takashige
フイナム
フイナム

食材とはどんなふうにして出会ってるんですか?

相馬
相馬

とにかく試食しまくっていますね。毎週そういう時間があるんです。例えば「天然醸造」といった感じで、ある程度条件を絞って試食するものを決めているんですけど、とにかく集めて、とにかく食べています。銘柄を見ずに、ブラインドで食べ続けていった先に選んでいくっていう感じですね。

フイナム
フイナム

ブラインドというのは、先入観なく選びたいということですか?

相馬
相馬

そうです。やっぱり世の中って、情報で選ばれてる傾向もあると思うんです。

長谷川
長谷川

ありますよね。

相馬
相馬

すごく高い評価を受けているものでも、食べると「?」って思うときもあったりして。ただ、それは自分たちが味覚的に反応しなかっただけということもあると思うので、もちろん自分たちが全てだとは思わないんですけど。

長谷川
長谷川

味覚って、自分が置かれてる気分にすごく左右されるところがあるじゃないですか。

相馬
相馬

ありますね。難しいですよね。同じようでいて同じじゃない。ただやっぱり、何回かやってくると平均化はされてきます。あと味覚が全然違う人たちとやるというのも、意外と重要だなと思います。同じ味覚というか、天然醸造のものばかり食べてます、みたいな人だけで集まると、同じ結論になりやすいというか。

フイナム
フイナム

なるほど。

相馬
相馬

だから味覚が違う人がいた方が、正しく味が見極められたりするかもしれないと思うんです。「Table to Farm」のエンジニアで、普段は肉しか食べませんというスタッフがいるんです。野菜が全然食べられなかったらしいんですけど、「Table to Farm」で集めた野菜はなぜか食べられると言っていて。つまり野菜自体が苦手なわけじゃなくて、ある条件下にある野菜が苦手だったんだっていうことに気づいた。それはやっぱり農薬なんだろうなっていうのは、自分で認識していました。

長谷川
長谷川

へぇ。

相馬
相馬

味覚って、元々持ってるものはずっと変わらず生きてるのかもしれません。

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フイナム
フイナム

ここからは「CAHLUMN STORE」で出していただいているものをいただきながら、お話していきましょう。「CAHLUMN STORE」で調理をご担当されているTOMOさんにもお話をうかがっていきます。

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長谷川
長谷川

真ん中の葉っぱは「Ome Farm」から仕入れた三河島菜です。江戸時代に名古屋の方から入ってきたものらしくて。足立区に三河島という場所があって、そこは江戸時代には農村地帯だったらしく、そこで栽培されたものです。食べてみるとちょっとほうれん草っぽい感じがあります。

TOMO
TOMO

そこに愛媛の法華津湾産、無添加ちりめんじゃこを和えました。里芋は無添加の大分のものを使っていて、ソイミートをのせたそぼろあんかけです。梅干しは和歌山の熊野産で、無農薬無添加の紀州南高梅のはちみつ漬にしています。

相馬
相馬

どれも美味しいです。

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TOMO
TOMO

キンピラに使っているれんこんは茨城土浦の無農薬、「TANOSIMU RENCON」のものです。

長谷川
長谷川

これ、結構独特な食感があるんです。シャキッとしてるんだけど、ちょっと柔らかさがあるというか。ちくわは小田原の「鈴廣かまぼこ」の「百年ちくわ」で無添加です。塩は、右が「Table to Farm」で買わせていただいた山口県の「100ZEN 海の塩」で、左がイギリスのマルドンの塩です。マルドンの塩はいくらつけても、いやなしょっぱさにならないんです。ポイントはマグネシウムなんじゃないかって言われてるみたいです。

Article image 数々のブランド米のルーツとなった、山形のイネの品種「亀の尾」を使ったおにぎり。
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TOMO
TOMO

こちらは、群馬県太田市産の減農薬のケール(※現在は青梅の「Ome Farm」のケールを使用)を使ったサラダです。オリーブオイルと塩でシンプルに焼いた黒田五寸人参は「Ome Farm」のもの。同じ人参を使ったラペには、無農薬で育った熊本の柑橘、不知火(しらぬい)を和えています。北海道産の新じゃがも無農薬です。そこに「GAIA」さんで購入した有機栽培のドライフルーツを散らしています。

フイナム
フイナム

野菜の味が濃いですね。

長谷川
長谷川

そうなんだよね。全然違う。

相馬
相馬

こないだ三重の桑名に行ってきたんです。こちらのお店で出されている海苔も桑名のものだと先ほど伺いました。桑名では「伊勢あさくさ海苔」の生産者の方に会ってきたんです。このアサクサノリというのは、なかなか残りにくい種なんです。一般的に広く流通しているスサビノリよりも圧倒的に弱いというか、生育が遅かったりするので。

フイナム
フイナム

かなり貴重な海苔なんですね。

相馬
相馬

そうなんです。そもそも今って海苔の数量が減ってきているんです。有名な有明も減ってますし、桑名でも減っている。でも、兵庫の方は意外と減ってないらしいんです。海苔が減っている理由を聞いたところ、ひとつはダムの開発などで山の有機物が少しずつ減っていると。あともうひとつは、人間の糞尿も含めた有機物をものすごい精度で浄化してるために、何の成分も入っていない“ただの水”を海に放出するようになったことだそうです。

そうなると、海の有機物の濃度は下がっていく一方で、当然海藻は生き残れなくなり、小魚も減っていきます。海を綺麗にしようと人間がやってることが全部裏目に出てしまっているんです。それで兵庫県では下水処理施設の栄養塩管理運転というのが実証実験されていて、どうやら陸からの栄養塩が海苔漁場に届き、色付きや収量への影響も確認できているらしいのです。海苔に関しては、すでに兵庫が有明の生産量を抜いたようです。

長谷川
長谷川

なるほど。僕もこないだ出張で伊勢に行ったときに、桑名を通りました。

相馬
相馬

あ、そうなんですね。あのあたりは長良川と揖斐川と木曽川という3つの巨大な河川が流れ込むことで、圧倒的に有機物の量が違うらしくて、有明海とか兵庫も比にならないぐらい高いみたいです。だからあそこで最高の海苔が取れるっていうのは、もう原理的に間違いないことなんです。

長谷川
長谷川

面白いですね。

相馬
相馬

ただ、漁師は圧倒的に減ってるんですよね。でも、普通の漁師をやるよりも、海苔の漁師の方が儲かるみたいです。

長谷川
長谷川

その話、鮨屋でも聞いたことあります。鮨屋って大体みんな海苔の話を始めるんです。海苔がいかに大事かということをみんな語るし、うちが出してるのはここの海苔だ、みたいな。食もいろいろな利権とも絡んでくるから大変ですよね。

相馬
相馬

そうなんです。漁業周辺は、やっぱり漁業権の問題があるんですよね。若い人がやりたいと言っても権利がないから参入できないわけで。権利を持ってる世代の方々もなかなか手放したりはしないので、その辺は難しいですよね。若い世代の方は漁獲制限をきちんとして、生態系を戻しながら色々していかなければいけないということがわかってるんですけど、あと5〜10年くらいでやめてしまうような方々にとっては、そんなに先の話なんて興味ないよみたいな。

長谷川
長谷川

あー、なるほど。

相馬
相馬

若い方々は農耕的な思考で漁業をやらないと続かないだろうという感覚があるんです。一方で昔の人たちは完全に狩猟型。目の前にあるものを採って生活するということなので、その違いはありますよね。なのでおそらくあと20年くらいは変わらないかもしれないんですが、最近の海の状況を見ていると20年も経ったら、もう海藻なんてなくなっちゃうんじゃないかと言われています。

Photo_Ayumi Mineoka
フイナム
フイナム

生産者の方々のお話を聞いて全国を回っていると、そうした危機的な状況が見えてくるわけですね。

相馬
相馬

そうなんです。この10年、20年はすごく重要な時期なんです。海藻が減ると小魚が減って魚も減るので、全部繋がってるんですよね。変わらないといけないという意識も芽生えてはきているんですけど、そうした危機感を覚えた方々は養殖を併用して事業を行なったり、もちろん、持続性のための研究者への協力などをしています。ホタテなんかは、北海道で養殖がすごくうまくいってたりとか。昆布はなかなか難しいですね。養殖の昆布って、天然の昆布とはまったく別物なんです。

フイナム
フイナム

今調べたら、国産の昆布って90%以上が北海道産なんですね。

相馬
相馬

はい。今までは羅臼とか日高、利尻なんかでもちゃんと天然が取れてたんですけど、もう去年あたりから、天然だけでやってたエリアは軒並み難しくなってきてますね。真昆布が取れるエリアでは、養殖を早めに始めていたみたいです。

長谷川
長谷川

こういう環境の問題って、消費者にとっては直接的には関係ないことだから、食に興味がない人たちからすると、本当にどうでもいい話と捉えているんでしょうね。でも例えば海洋プラスチックの問題でいえば、みんな刺身を食べるわけじゃないですか。なんなら塩にも影響してくる話なわけで、さっきもおっしゃってましたけど、いろんなことが繋がってるわけですよね。自分が食べるものに関しての認識を、みんなが改めていくと色々変わるんだろうなと思うんですけどね。みんな興味なさすぎですよね(笑)。

Article image Photo_Ayumi Mineoka
フイナム
フイナム

相馬さんはいつから食に興味を持たれたんですか?

相馬
相馬

「D&DEPARTMENT」に入ってからですね。当時23歳くらいだったんですけど、すごく面白い先輩がいて、その人に飲食店に関しての美学と美意識を教えてもらい、そこから関心を持ちました。どういうお客さんが、どういう時間をお店で過ごしてるのかということにすごく関心を持っていた方で。だから食に関して関心を持ったのは、飲食店が最初なんです。そんななかで渋谷のヒカリエで食堂(d47食堂)を始めて、生産者たちと会うようになったのが、食材のことを考え出すきっかけかもしれないですね。

長谷川
長谷川

「D&DEPARTMENT」では食部門のディレクターをやられているわけですよね。

相馬
相馬

はい、10数年やっていて、今もやっています。

長谷川
長谷川

今は自然食品にこだわってやっている方々も増えてきましたけど、この食材はどこどこの何々ってことをちゃんと明言してあげることって大事だと思うんです。フックアップされやすくなるというか、そもそもわかりやすくなる。生産者の方にとってもいいことですし。「Table to Farm」はそういうことをやってますよね。

フイナム
フイナム

服の世界でも大事ですよね。ただのTシャツといって売るのではなくて、これはどこどこの素材を使ってこんな想いがあって作っているんです、ということをきちんと伝えること。

長谷川
長谷川

そうだね。買う側がもっと調べればいいっていう話なのかもしれないけど、そこまでは調べきれない、あるいは調べない人がいるからこそ、正しい情報をきちんとインプットしてあげることって大事なのかなと思います。

相馬
相馬

そう思います。僕らはあくまで入口になれればいいかなと思ってるんです。僕たちなりには理由があってこの食材に行き着いたものの、お客さんからすると「卵ってどういう卵がいいんだろう」という疑問に対しての取っかかりになれればよくて。そのためにこちらで整理をしておきますのでという感じです。あとは味の好みで選んでいただけたらいいわけで。一回僕らが選んだものを見ていただけると、スーパーに行ったときに、ものを見る解像度が上がると思うんです。

長谷川
長谷川

それはありますね。

相馬
相馬

もちろん一度試していただいて、それをリピートして普通に生活のなかで使ってもらえるようになったらいいなとは思うんですけど、別に必ず「Table to Farm」で買わなきゃいけない理由もないので。

フイナム
フイナム

大多数の方が、いわゆる大型のスーパーで買うわけで、そういうところにいいものが並ぶようになると変わってきますよね。

相馬
相馬

日本って流通が強すぎるというか、スーパーが強すぎるらしいんですよね。例えば賞味期限ってかなり曖昧なルールで、作る側が菌数検査をしてこれくらいは大丈夫だろうと設定するんですよ。でも実際その日付にするか、もうちょっと短めにするのかは自由なんです。

フイナム
フイナム

聞いたことあります。

相馬
相馬

賞味期限を長くするために、添加物を入れて安定させて販売期間を伸ばすということが行われてますよね。どこまでもスーパーの都合というか。作るマインドよりも売るマインドの方が先行しているのが現状です。

後編に続く。

INFORMATION

Table to Farm(テーブル トゥ ファーム)

https://tabletofarm.jp

オープン日:2025 年7月25日
形態:会員制・オンラインスーパーマーケット

入会金:5,500円(税込)〜 

「素の味」協力金:220円(税込)/2週間