この本がフォーカスを当てているのは日本代表のリレーチーム。チームは塚原直貴、末續慎吾、高平慎士、朝原宣治、小島茂之の5名の短距離選手で構成されていて、それぞれがとてつもないスピードでトラックを走る。ここでは彼らが過ごした、2007年の夏の世界陸上大阪大会から08年夏の北京五輪までを、客観的事実、著者の視点、本人たちの主観を織り混ぜて描いている。
驚きなのは、それぞれへの取材はもちろん、周囲の家族や恩師への聞き込みに加え、日々の練習にまで密着していたということ。その膨大な取材時間は、文章表現に如実に現れている。本人たちも語っていたが、著者の文章には走っているときの身体の動きや感情の揺らめきさえもがそのまま綴られているのだという。
リレーに関しても、観戦だけでは知り得ない奥深さが語られている。著書を読んでいると、リレーは4人それぞれの100mのタイムを足し算しただけの単純なレースではないことがわかる。海外と比べて日本のチームは「創造的なパス」を得意としていて、それは前後の走者が、追いついてくれるだろう/きっと受け取ってくれるだろうという信頼のもとに成り立つ。うまくいけばバトンパスによって前後の走者をより速く走らせることができるのだ。つまり単純な足し算を下回るタイムも夢ではない。
足が速い子はかっこいい、なんて子供のときの話のようだけれど、速さに人生を懸けた大人たちはすごくかっこいいと思う。