金子さんが手掛けるショップ「BOUTIQUE」オリジナルの「B.D.シャツ」をベースに、フイナムらしいエッセンスを加えた本作。襟をレギュラーカラーに変更し、シャツ生地はストライプとチェックの柄物を選びました。
カジュアルな見た目ですが、手縫いで処理した肩周りや、際ギリギリを走るステッチライン、さらには運針の細かさなど、仕立てはドレスシャツそのもの。キレイめトラウザースからジーパン、チノパンなんでもござれ。解釈次第でどんなパンツにも合わせられる、カジュアルなドレスシャツが完成しました。
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仕立てを良くするっていうのは道具的な発想。
ー 「BOUTIQUE」のシャツの誕生の裏側には、どんなストーリーがあるんですか?
金子: むかし、カルロリーバっていう世界最高峰のファブリックメーカーの生地を使って、同じように最高の仕立てでシャツをつくったことがあるんです。形はアメリカの老舗ブランドのB.D.シャツを参考にして、仕立てはめちゃくちゃ綺麗なんだけど、どこかカジュアルで。それは当たり前にいいものだったんですけど、これだけ仕立てがよければ、生地はなんでもいいんじゃないか? と思い当たったんです。
ー 一般的には、いい生地を使っているけど仕立てにはこだわってない、というシャツはよく目にします。でも、その逆の発想をいくアイテムはあまり見たことがなかったです。
金子: 「BOUTIQUE」でつくっているやつも、生地屋さんでたまたま見つけた生地を使っているんです。大量生産されているものだから、すごく安くて。だけど、悪いシャツが生まれるイメージが全然湧かなかった。その思いつきというか、ひらめきから生まれたんです。
いざつくってみると、めちゃくちゃいいものができてしまった。やっぱり仕立てがいいと、服としての完成度がすごく上がるんですよ。たしかに高級な生地と比べると、光沢感とか、肌触りは変わるけど、決して物足りないわけではない。着ていると、「それどこの生地ですか?」ってデザイナーさんに聞かれたりもして、仕立てがいいと生地がよく見えるんだなって思いましたね(笑)。だけど、生地がいくらよくても仕立てが良く見えるっていうことはないですよね。だからやっぱり仕立てってすごく大事なんです。
ー 一般流通している普遍的な生地とはいえ、決してクオリティが悪いわけではないんですよね。
金子: 安いというのは、あくまで大量生産されているからなんです。衣料全般に使われている生地だから、ある意味では安心安全のクオリティ。安定感があるし、耐久性もあります。なので、安いからといって粗悪であるというわけではないんです。
ー そうしたスタンダードな素材のほうが、職人の本領を発揮しやすいという話を聞いたことがあります。高級な素材だと繊細すぎたりして扱いが難しい。けれど、普遍的な素材は誰もが扱いに慣れている、と。
金子: そうかもしれないですね。素材が良すぎると、滑って縫いにくいとか、ミシンの針が入らないとか、そういう話はよく聞きます。よくよく考えるとヴィンテージの服とかも、当時流れていた生地を使っていただろうし、特別なことをしようと思ってつくってないというか、もっと発想はシンプルだったはずなんです。
ー たしかにそうかもしれないですね。もっと道具的だったというか。
金子: ただ、やっぱりいいものをつくろうとすると経験や知見が必要です。それをどういった文脈で活かすかが重要。ぼくの場合は道具的につくられた服にどうしても惹かれてしまうので、「BOUTIQUE」のシャツもそういう考え方がすごく反映されていますね。
ー ドレスの世界の道具ということですか?
金子: そうですね。縫製の美しさというのは、ドレスの世界では当たり前。仕立てを良くするっていうのは道具的な発想なんじゃないかとぼくは考えています。だけどそれをカジュアルなシーンに場面を移すと、ファッション的なおもしろさが生まれる。くだけた場所できれいな服を着るっていうのがユニークですよね。普段だらしないひとも、これを着るとちゃんとして見えたりして。そうゆう着方ができるところに、道具たる所以があるんじゃないかなって思います。
アメリカのシャツを、イタリア人の考え方によって料理する。
ー 今回フイナムではロンドンストライプの生地と、柄の異なる2つのチェックをピックアップしてシャツをつくりました。それをB.D.ではなく、レギュラーカラーにしています。
金子: フイナム編集部とのキャッチボールから、まずはストライプがいいんじゃないか? というアイデアが生まれたんです。無地のブロードだとドレスっぽくなりすぎるし、読者の方々は軍パンやチノなどのカジュアルなボトムを穿くひとが多そうだということでしたね。ロンドンストライプってアメリカン・トラディショナルの代表的な柄だし、なんとなくそういうのが気分的にも合いそうだなということで。
ー これもやっぱり一般流通している生地なんですよね。
金子: そうですね。ただ、今回は無地ではなくて柄なので、その中でいいものを探すのが大変でした。やっぱり細番手の糸を使ってないと柄がきれいに出ないので。いろいろ掘っているうちに魅力的なストライプの生地を見つけて、そのプロセスの中で2つのチェック柄もみつけたんですよ。
ー こちらのチェック2型は、触れるとどこか繊細さを感じます。特別な生地なんですか?
金子: 細かなチェックのほうは「モンティ」のもので、大柄なチェックは「トーマス メイソン」の生地ですね。僅かな量しかなく、本当に限られた枚数しかつくれないから、いい生地なんだけど、特別プライスでお出ししました。ロンドンストライプの延長線上で、こういったチェックがあるのもおもしろいし、土台にしているのはアメリカン・トラディショナルのシャツだから、それにも合うような気がしたんですよ。
ー それぞれ表情が違うけど、不思議とまとまりを感じます。
金子: なんか、すごくリアルな感じがしたんです。格好つけすぎてないし、あまりにもいまの気分を尊重しちゃうと、来シーズン着られなかったりもする。普遍的であり、特別いまっぽくもなく、だけどなんかいいっていう絶妙なツボをついた柄だと思います。ワードローブにあったら度々取り出して着たくなる感じというか。
ー 仕立ての良さによるものなのか、トラッドを土台しているのに、コテコテのアメリカというと、そうでもないような感じがしますよね。
金子: なんともいえないバランス感がありますよね。襟も旧き良きアメトラのB.D.シャツの形からサンプリングしているんです。ちゃんと外側にカーブがかかっていたりとか、細かな部分までしっかり再現しているんですが、いい意味でくどさがないというか、なじむ形なんですよね。
ー シルエットはボックスですよね。
金子: オリジナルのシャツよりも、着丈と身幅のバランスをすこしだけアレンジして、横に広めのバランスにしています。本来はタックインするために着丈が長く設定されていたんですが、いまは外に出しても着る時代なので、そこは現代的に編集しなおしました。
ー そしてそれを最高の仕立ててでつくっていると。
金子: 仕立てはナポリ仕立てを意識しました。たとえばアームの部分は手縫いなんですけど、脇下のステッチのラインがズレているのが分かりますか? これは袖が前にくるように縫っているからなんです。イタリア人の考え方で、人間の身体の構造に合わせてジャケットの袖がすべて前方向に袖がつけられているから、同じようにシャツもそうしようということなんです。ベースはアメリカのシャツなんだけど、イタリア人の考え方によって料理している。それがいちばんの特徴ですね。
金子: あとはボタンホールのところに1箇所だけ、グリカンと呼ばれる閂止めみたいなディテールを加えています。前立ての裏側って折り返しの生地がペラペラしているので、それが遊ばないようにするための仕様だと思うんですが、イタリアの高級シャツにこういうディテールがあるんですよ。そうやってヨーロッパのアイデアを盛り込んでますね。
ーこうしたアームの縫い方にしても、日本国内の一般の工場ではそれを実現できるところは限られるんですか?
金子: そうですね。ナポリってもともとは貧しい街で、機械が無いから手縫いの文化が発達したそうなんです。だけど日本には機械があるから、逆にナポリの職人たちのような技術を持っているひとが少ない。日本とナポリのあいだにはそうした背景の違いがあって、貧しさから生まれた技術が美しいものづくりを実現しているんです。
ミシンで縫うとパッカリングが生まれて、いかにも機械で縫った感じが出てしまうんだけど、こうして手で縫われたものって、すごく柔らかな印象がある。そこにぼくは色気を感じるんですよね。
ー 直線的というよりは曲線的で、どこかふくよかな暖かみがあるというか。
金子: イタリアのシャツってあきらかに色気があって、ふんわりしているんです。どうやってもそうなるというか、カチッとはならない。日本人がイタリアのものに惹かれるのは、そういう部分だと思うんです。ぼくはアメリカン・トラッドのシャツにそういう要素を取り入れたかったんですよ。
ー 運針の細かさも見え方に影響しているのでしょうか。
金子: かなりしているんじゃないでしょうか。今回は柄だからステッチが見えづらいとは思うんですけど、やっぱり細かく縫われていると美しさが違ってきますよね。
ー そうした繊細さも金子さんが話す“色気”に影響を与えているような気がします。
金子: そう思います。すごくゆったりとしたフォルムのシャツなので、普通の縫製をしてしまうとカジュアルになりすぎちゃうんですよ。だけど、このフォルムを美しい仕立てと縫製によって生み出すことによって、おもしろさと色気が生まれているんです。
Mサイズ(2) | Lサイズ(3) | |
バスト | 71cm | 73cm |
着丈 | 82.5cm | 84.5cm |
袖丈 | 62cm | 63cm |
肩幅 | 48.5cm | 50cm |
首周り | 42.5cm | 44.5cm |